読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

嘘つきジェンガ 辻村深月著 文藝春秋 2022年

 詐欺にまつわる短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 2020年のロマンス詐欺
 山形から東京の大学に進学した加賀燿太。だがコロナ禍で授業はなく、食堂を営む両親からの仕送りは減って、なのにバイトも決まらない。そんな時、地元の幼馴染みからバイトの紹介を貰う。手あたり次第メールを送って、親しくなったところでお金を振り込ませるという仕事、バイトが関与するのはある程度まで という言葉を信じ、湧き上がる疑惑を抑え込んで、燿太は手を染めてしまう。そのうち燿太は、夫のDVに苦しんでいるという女性と知り合う。助けを求める彼女に、偽名を名乗っている燿太は何もできない。バイトの上司からの締め付けは苦しくなる一方、燿太も追い詰められていく中、ある日を境に彼女との連絡は途絶えてしまった。燿太はいてもたってもいられず、彼女の住まいを訪ねる。

 五年目の受験詐欺
 勉強について何の心配もいらなかった長男に対し、次男はどうものんびりしていた。中学受験は当たり前だと言う夫の価値観につられて、精神的に不安定になって行く多佳子。そんな多佳子に「まさこ塾」という教育セミナーが紹介された。中学受験の様々な情報が手に入る親向けの塾、多佳子は次第に彼女を頼りにするようになる。やがて、多佳子は彼女から「事前受験」を勧められた。百万円払えば志望校へ特別紹介するといわれ、多佳子は夫に黙って受験料を払ってしまった。
 五年経った今、多佳子に、まさこ塾を詐欺で訴える準備をしているという連絡が入る。原告団に加わって欲しいとの依頼に、多佳子は動揺する。

 あの人のサロン詐欺
 紡は漫画原作者の谷嵜レオの名を騙って、サロン会を開いている。最初はそんなつもりじゃなかった。覆面作家谷嵜レオの熱狂的なファンだった紡は、SNSでその週の漫画の感想を呟いてるだけだったのに、勘違いした閲覧者が増えて、ついそれに乗っかってしまった。両親にさえ嘘をつき通したある日、本物の谷嵜レオが下着泥棒で捕まってしまう。紡にも問い合わせや糾弾が殺到、逆ギレした紡は、ネットで上がっていた谷嵜レオのアパートを訪ねる。…

 『2020年のロマンス詐欺』はアンソロジーで読んでました。そうか、シリーズ(?)の一環だったか。
 凄い、と思ったのは『あの人のサロン詐欺』。これは騙した側のお話、しかも首謀者は熱狂的ファン、ってのがもう、辻村さんにしか書けない世界だなぁ、とつくづく思いました。そうそう、好きな作品の関連書籍とか読んで行くんだよねぇ、覚えがあるぞ(苦笑;)。どんどん追い詰められていく主人公、嘘に噓を重ねて(もう息をするように・笑)取り繕って、でも思いもかけない方向から破滅する。これで好きな作品の続きが読めなくなってしまう絶望、ってのはちょっと共感してしまいました(苦笑;)。最終的にはファンであったことが役に立つ訳で、伏線の張り方もお見事。チヨダ・コーキの名前がちらっと出てきたのも嬉しい限り。ただ、この結末では主人公はあまり報いを受けていないような…。何もかも不問、というのは虫が良すぎる気がしないでもない。
 『五年目の受験詐欺』を読んで、辻村さん旦那さんと上手く行ってないのかしら、といらぬ心配をしてしまいました、すみません; 作中の長男次男がいい子に育っててよかった、よかった(笑)。