読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

「おたく」の精神史 1980年代論 大塚英志著 講談社現代新書 2004年

この国はなぜ袋小路にはいったか?
ニューアカロリコンまんが、フェミニズム黒木香糸井重里、新人類、宮崎勤岡田有希子、都市伝説、UWF

ロリコンまんがの誕生、岡田有希子自死、キャラクター産業の隆盛、都市伝説ブーム、フェミニズムの隘路。現代日本社会の起源を探る試み。

90年代に入って起きた事件や、そこで問題化される事柄、あるいはネットや携帯の影響によってもたらされているといわれる新しい問題、それらはぼくにとってすでにいつか見て、あるいは語られたもののように思われた。 89年を境にぼくたちの言葉は政治においてもサブカルチャーにおいてもリハビリテーションされるべきであった。――あとがきより   (出版社紹介文より)

 先日読んだムック本で、恩田陸さんが大塚英志さんとの対談で、えらく意気投合してらっしゃったのが印象的だったので、大塚英志さんの著書を何か読もうと借りてみました。…そしたらえらく分厚くて驚いた(苦笑;)。読むのも時間かかりました。

 著者はエロ漫画雑誌からロリコン漫画の編集や漫画原作等扱ってらっしゃったそうで(奥さん…なのかな、白倉由美さんだそうで驚いた)、現場からの視点は凄まじい説得力でした。宮崎勤裁判の弁護団側の証言者(…でいいのかな?)だったということも初めて知りました。当時の、そういう現場で働いてらっしゃった方に訪れた混乱や狂騒っぷりも。

 ほぼ年代順に語られる、その時代のサブカルチャーやおたく文化の変遷。知っていることもあり、知らないこともあり、そうだったのか!と今にして納得することもあり。
 「新人類」が欲する商品は用意されていたが、「おたく」たちが欲する商品はその時点では経済システムの外側にあった、で、コミケのような場所で自給自足に走った。…ってのは、もう、成程!でした。私が二次創作の面白さを知ったのも同人誌でしたもの。それは確かに、同人誌即売会にしかなかった。そこで名を馳せた人が本屋で買えるようなアンソロジー本に描いてたり、今でいうラノベのイラストを描いたり、勿論メジャー誌でデビューしたりするのをリアルタイムで見ていました。
 宮崎勤の部屋の写真が意図を歪められて写されていたとか、知りませんでした。ヌードグラビアが女性の自己表現になっていったとか、エロ本の少女の相手が男性ではなくなっていくとか、言われてみると確かにそうだわ。
 ピンクハウスの「コピーを続けることで生じるオリジナリティ」ってのは、海外からの文化を取り込んで自分のものにしてしまう、日本の文化の根っこだよなぁと思いましたし。
 「内面型」の少女まんがとしては、羽海野チカさんがより読み易く洗練させた形で使っていると思うのですが、この本が書かれた当時はまだ出てなかったかな。先鋭的になって行く表現、ついていけないのはまだしも、「内面」を諦めていく女の子たちの、何と哀しいこと。そして少年まんが的に、勝利して全てを手に入れる『セーラームーン』が大ヒットする。それに力を貰った女の子たちも沢山いたんでしょうけど、共感ではなかったかもなぁ。
 『ぴあ』はあらゆる情報を網羅することを目指し、そこから読者が自分の欲するものを取捨選択していたのに、やがてそれができる読者が減っていく、というのは専門知識が先鋭化して博物学が衰退していくのにも似てるかも。ただ近年、情報量が短期間で爆発的に増えたからなぁ。一般教養とはどこまでなのか、雑学との差は。
 「犯罪を社会の責任として引き受ける」考えは確かに減ったと思います。これを模索する弁護側、誠意と努力を認めながらも諦観視もする著者。…一番やりきれないのは被害者だし。
 漸く完結したエヴァンゲリオンを、著者は今ならどう見るのかしら。どこかに書いてらっしゃるのかな、知りたいです。