読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

雨の中の涙のように 遠田潤子著 光文社 2020年

 連作短編集、になるのかな。
 ネタばれあります、すみません。

 第一章 垣見五郎兵衛の握手会
 時代劇の大部屋俳優 伍郎が役者を諦めたのは、堀尾葉介に会ったからだった。容姿だけのアイドルだと侮っていたのに、圧倒的オーラを持ちながら物腰柔らかく、才能に恵まれている上努力も惜しまない。伍郎は恋人で女優のさくらに、夢を諦めて郷里に帰ることを切り出す。結局さくらは共に来ず、伍郎の前から姿を消した。10年後、姪っ子が持ってきたアイドル雑誌に、伍郎はさくらの娘らしい少女の姿を見る。

 第二章 だし巻きとマックィーンのアランセーター
 斜陽を迎える朝田商店街で、小西鶏卵店のだし巻きは、元アイドル 堀尾葉介の思い出の味として未だ売れ続けている。葉介の影響力は凄まじく、父の跡を継いで毎日黙々とだし巻きを焼いていた章に、葉介目当てで近付いてくる女性ファンがいるほど。周囲の店に迷惑をかけ、章に女性不審を抱かせた葉介が、またTVの取材で商店街を訪ねて来るという。

 第三章 ひょうたん池のレッド・オクトーバー
 アメリカでフライフィッシングのガイドをする前、村下九月は三重県ヘラブナの釣り堀を経営していた。下校時、小学校で虐められている様子の転校生がわが子と重なり、九月はその子――堀尾葉介の面倒を見てやるようになる。葉介と共に釣り堀に来る母親 佐智。九月はやがて、佐智と想いあうようになる。

 第四章 レプリカントよもぎのお守り
 幼い頃 川で祖父を亡くし、潜水士として働いて後輩を亡くし、横山龍彦は水に潜れなくなった。知る人ぞ知る高級別荘地のカフェレストランに転がり込み、オーナーシェフの志緒に拾われた。志緒を手伝って働くうち、龍彦はとある老夫婦と知り合う。車椅子の夫人を甲斐甲斐しく世話する夫。微笑ましく見守っていたが、老夫が堀尾葉介の親だと判り、周囲が落ち着かなくなっていく。

 第五章 真空管と女王陛下のカーボーイ
 丸子浩志はペット探偵。父子家庭で、歯科衛生士の恋人がいる。ある日、映画の役作りとして堀尾葉介に取材を申し込まれた。共に迷い猫を探すうち、すっかりやせ細った仔猫を見つける。死体と思しき髪の長い女も。

 第六章 炭焼き男とシャワーカーテリング
 堀尾葉介が映画の撮影で福井県にいる。炭焼きの岩田近夫は、彼に聞いてほしいことがある、とバイクでロケ現場に向かう。サラリーマンを辞めて就いていたバイク便の仕事で知り合った所長さんのこと、その娘さんが堀尾葉介のファンだったこと、炭琴を演奏していたらしいこと。所長さんが退職して以降、近夫は炭焼き職人に弟子入りする。

 第七章 ジャック ダニエルと春の船
 故郷の釣り堀が買い取られ、池のほとりに新しい家が建つらしい。瀬戸内海の内航船の船長をしている玉木順二は、古い記憶を呼び起こされる。ひょうたん池の主人と抱き合っていた女のこと、そこに通っていた同級生の虐めに加担したこと。狭い町に住む人々は外に出て行った順二を嫉み、居心地はよくない。違法行為でさえ、しがらみの中でうやむやにされるほど。

 最終章 美しい人生
 土砂降りの雨の中、堀尾葉介は土石流にあい、見知らぬ母子と共に寸断された道路に取り残された。訳ありの母子を助けようとしながら、葉介は両親との過去を思い出す。…

 読み始め、独立した短編集なのかな、と思いきや、堀尾葉介という稀代の名スターにまつわる周囲の人々の物語でした。で、最後に葉介自身の救いが描かれる。
 イメージとしては誰なのかな。山田涼介さんとかになるんだろうか。ちょっとまだ若いな、キムタクじゃないんだよな、とか勝手なことを思いつつ(苦笑;)。
 各編にそれぞれ多数の映画も絡まります。作者の知識量でも勿論あるんですが、堀尾葉介が見たんだろうな、という努力家のエピソードの紹介とも受け取れるのが巧い。マナーの悪いファンの行動とかも秀逸で、実際こんな人いるのかもなぁ、と妙にリアルでした。
 自分のせいではない不幸を背負い込むだけでも悲劇なのに、あのラストは、それでも救いになるのかなぁ。
 ただ、あのひょうたん池を別荘にするのはやめた方がいいんじゃないかしらと思いました。プライバシー守れる環境じゃないよ(苦笑;)。