読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~ 三上延著 メディアワークス文庫 2022年

 シリーズ10冊目。ネタばれあります、すみません;

 古書店 虚貝堂の跡取り息子 杉尾康明が亡くなった。個人的な古書コレクションが千冊ほどあったらしいが、父親である店主 杉尾正臣は全て売り払うという。康明の別れた妻 樋口佳穂は、息子にも相続の権利はある筈だ、とビブリア古書堂に相談を持ち掛けて来た。
 正臣は、栞子たちとも共同で出品するデパートの古本市で、蔵書を売りに出そうとしていた。

 初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子
 康明の息子 恭一郎は、祖父に誘われて古本市の手伝いをすることに。『人間臨終図巻』について熱く語る扉子と知り合いになる中、初めての客にクレームをつけられ、落ち込む一幕も。映画パンフ『インターステーラー』と『ゴジラの息子』を売った後、値札を確認した正臣は、それが相場より安いことに眉を顰める。恭一郎はその二冊を買っていった客を覚えていた、何故ならその客にパンフを保護しているビニールに落書きがあると指摘されたから。

 二日目・樋口一葉『通俗書簡文』
 康明が一時期、行方不明になっていたことを聞いた恭一郎。両親の離婚の原因もそこにあったらしい。康明は旅先で事故にあい、記憶を失っていたとのこと。
 康明の蔵書の、樋口一葉関連の書籍に五千円札が挟まっていた。それも珍しい記番号で、マニアに高値で取引されるような品。あわてて他の書籍も探すが、『通俗書簡文』が見つからない。どうやら売れてしまったようだが、誰もその本を売った記憶はなかった。誰が購入者なのか、だが、扉子は「お札は戻って来る」という。

 最終日・夢野久作ドグラ・マグラ
 康明の蔵書『ドグラ・マグラ』復刻版の函の中に、初版の署名本が入っていた。初版本は、篠川智恵子が記憶を失った康明に売りつけたものらしい。では、復刻版はどこに行ったのか。康明は復刻版の方に愛着があったという。虚貝堂の倉庫で、栞子たちは智恵子と相対する。智恵子は、正臣が実は康明の本を手元に置いておきたいのだと看破した。倉庫の中にもなかった復刻版は、今どこにあるのか、正臣が恭一郎に本を渡したくなかった本当の理由は。…

 『ドグラ・マグラ』読んだ方がいいのかしら、でもきっと好みじゃないんだよなぁと心がうろうろおたおたした一冊。映画のパンフレットも古書なんですね~。
 虚貝堂店主正臣さんの、息子の蔵書を手元に置いておきたい理由が今イチすっきりしないなぁ、と思ってたらきっちりどんでん返しがありました。いや、佳穂さん、気持ちは分からないではないけれど、それは勿体ないよう(←そっちかい)。康明さんの中では、貴重な稀覯本より馴染み親しんだ復刻版の方が大切だった訳で、好感を持ったんですが、その辺りのことも智恵子さんはお見通しだったようですね。
 扉子と恭一郎の関係は栞子と大輔を見るような、とほのぼの思ってたらラストは不穏に終わってしまいました。智恵子さん、何させようとしているの?? 最終的な目的はこれから明らかになるんでしょうか。
 次巻に続きます。

白昼夢の森の少女 恒川光太郎著 角川ホラー文庫 2022年

恐怖と哀しみがまじりあう、恒川光太郎を味わう短編集。

異才が10年の間に書き紡いだ、危うい魅力に満ちた11の白昼夢。人間の身体を侵食していく植物が町を覆い尽くしたその先とは(「白昼夢の森の少女」)。巨大な船に乗り込んだ者は、歳をとらず、時空を超えて永遠に旅をするという(「銀の船」)。この作家の想像力に限界は無い。恐怖と歓喜、自由と哀切―小説の魅力が詰まった傑作短編集。文庫書き下ろしの掌編「ある春の目隠し」も特別収録!  (出版社紹介文より)

 おう、恒川さん新刊出たんだ、と手を出しました。読み始めて、あれ、これ覚えあるなぁ、と思って確認したら、…読んでましたね、単行本で(爆!)。
 改めて読み返しました(…;)。おお、覚えてるぞ、覚えてるぞと嬉しく何作か読み進んだのも束の間、やっぱり忘れてる作品も出て来て、自分の記憶力のなさを再確認しましたよ(苦笑;)。で、改めて、面白かったです。

 最終話は書き下ろし、『ある春の目隠し』。学生時代の友人を訪ねて、共通の友人と共に宿泊した深夜、眠れないまま近所を散歩していたら突然後ろから目隠しされて「死ぬんだよ、いつかきっと人は」と囁かれた体験談。「私」を目隠しした人物は誰だったのか、最後まで明確には明かされないまま、「怖い話」的に終わります。…これは作者の体験談じゃないよね?? あとがきに曰く、実話怪談は『布団窟』しか書いてないらしいし、ってあれ実話なの!?
 ご本人自身、なかなか不思議な体験してらっしゃるようです。

山脇百合子さん

 ネットで訃報を知りました。

 日本の子供で、この方のお世話になってない人はいないんじゃないかしら。
 『ぐりとぐら』の美味しそうなケーキ、『いやいやえん』への密かな共感。あのかわいらしい挿絵があってこそ。
 うちにあったのは『らいおんみどりのにちようび』、何度も何度も読み返しました。本当にキャベツはそんなに美味しいのか、キャベツで背は伸びるのか?(笑) 青空に吸い込まれるトランプを、今でも覚えています。

 延々と読み継がれる、作品は永遠に生きるということを実例を持って示して下さったと思います。

 ご冥福をお祈りいたします。

物語のものがたり 梨木香歩著 岩波書店 2021年

MINIATTERE TRIP IN JAPAN 田中達也著 小学館 2019年

ミニチュア写真家・田中達也、珠玉の写真集
Instagramのフォロワー200万人を抱えるミニチュア写真家の田中達也氏。自身のSNS「MINIATURE CALENDAR」で1日1点公開している作品は、身近な日用品を全く別の何かに見立てたユーモアたっぷりのアートとなっています。そんな田中氏の数ある作品の中から日本らしさを感じさせる風景や物、食べ物だけをセレクトし、1冊の写真集にまとめました。ふだんの暮らしの中にある身近なもので表現した日本の魅力を堪能してください!   (出版社HPより)

 ミニチュアは好きです。ドールハウスも勿論好き。で、この見立てというのは、ドールハウス好きは元々やってた所もありまして、コーヒーフレッシュの入れ物を植木鉢にするとか、ランプシェードにするとか。私も小さい頃、石鹸箱積み重ねてリカちゃん用の箪笥にしてたことありましたし。
 で、この作品集です。好きにならない筈がない。とにかく小さくてかわいい、見立てが予想外で鮮やかで、見てて全く飽きない。所々、「あ、この人形ここでも使ってるww」などと思いつつ、見る度発見があるような。折しも神戸空港に常設展ができるようで、機会があったらぜひ直接見てみよう、と決心したのでしたよ。
 英文での説明文もあったんですが、これそのまま日本語の解説を英訳したものではないんですね。それぞれ独自の内容で、何年かぶりに英語辞典引きましたよ。調べた傍から忘れましたけど(苦笑;)。

パーマネント神喜劇 万城目学著 新潮社 2017年

 連作短編集。
 ネタばれあります、すみません;

 はじめの一歩
 縁結びの神様に、「まず、はじめに」という口癖を封じられた篠崎肇。おかげで今までの、順序立てているようで実は優柔不断だった行動が、行き当たりばったりになってしまった。おかげで日々新しいことにチャレンジする羽目に、ただ今までになかった充実感は得られている。恋人坂本みさきにもプロポーズできた。
 神様は神様で、神界のフリーライターに取材を受けていた。

 当たり屋
 宇喜多英二、26歳の当たり屋。痛めた膝を治して欲しいと神社で祈願したら、新任の神様に本当の「当たり屋」にされてしまった。以来、競馬で当たり、自動販売機で当たり、宝くじで当たる。だが、ちっとも嬉しくない。
 一方、神社の神様は、後任の神様に勝手に自分の言霊を使われて焦っていた。

 トシ&シュン
 トシは小説家を目指していたが、今一つ結果が出なかった。ある日神社で恋人のシュンからアドバイスを受けて小説の書き方を変え、漸くデビューにこぎつける。それでも小説で食べて行くにはまだまだ時間が掛かった。
 シュンは売れない女優だった。オーディションになかなか合格しない状況を見て、恋人のトシから演技プランを変えてみるようアドバイスを受ける。そのオーディションそのものには受からなかったが、別の役がつき、そこから徐々にメディアへの露出が増えて行く。
 それはその神社でバイトをしていた神様が見せた「もしも」の世界。仕事で成功した場合、二人は結ばれない。縁結び担当として悩む神様、実は神様自体が試されていた瞬間だった。

 パーマネント神喜劇
 地震で本殿が壊れてしまった。だが人々は参拝に訪れ、平穏を願う。おばあちゃんの家に避難していた少女 美琴も、何故かおばあちゃんの家の近くにある神社の御神木、マテバシイのどんぐりを持って。神社で何度も出会った不思議な男は美琴に、本殿に向かってどんぐりを投げるよう指示した、気がする。…

 あらすじ書くのが難しかったなぁ。人間の話と神様の話が平行して書かれていて、どちらにも比重がある感じだったので。
 ひょうひょうと明るい口調で書かれる内容、軽い気持ちで読んでいたら最後にどん、と重いのが来ました。これ、最初の頃はここまで構想してなかったと思うんだけど、どこで作者は話を広げることを思いついたんだろう。それにしても、最終的には希望に満ちた終わり方で、語り口にあってましたね~。
 面白いお話は大神様さえ動かす。本当に大地震がなくなればいいんだけど、としみじみ思ってしまいました。

「十二国記」30周年記念ガイドブック 新潮社 2022年

歴史を塗り替えた大河物語「十二国記」の30年史を辿る!
1991年に新潮文庫の一作として発表された『魔性の子』は、その後、「十二国記」シリーズの「はじまりの物語」となり未来に繋がる————。30年の時を経て、初版3万部で始まった一冊が、《完全版》全10点15冊の累計1280万部を超える大作となった今、改めて作品世界を振り返り、様々な視点から「十二国記」の30年史を辿る、シリーズ初の「ガイドブック」。   (出版社紹介文より)

 購入しようかどうしようか迷いました。いやだって、有識者の皆さんの寄稿は私にはあまり惹きがないし、短編『漂舶』は持ってるし。作者へのロングインタビューの内容次第だな~、と思ってたら、それ以外でもどうもいい評判が聞こえて来たので買ってみました。
 …面白かったぜ、畜生。
 芥見下々さんも十二国記読んでたのね~。悪霊シリーズは絶対読んでるとは思ってたけど。
 校閲担当者の寄稿とか珍しいなと思ったら、これ作者の作成した地図に言及するためだな。校閲者さんが作られた地図とかも驚愕でしたよ。
 そして何より、担当編集者へのインタビューでしたね。「その手があったか!」でした。講談社から新潮社へ渡ってまでも同じ方が担当してるとは、なにその運命! 十二国記に編集人生捧げてるじゃん!!(羨ましい) 作者自身があまり語られない方なので、裏話がとにかく楽しい。愛情、熱意がひしひしと伝わって来て、ああ、この人も同士だ、と嬉しくなってしまう。そして、…講談社文庫担当者、何 怠慢してたんだよ! 絶対離しちゃいけない作家さんだろうが!! いや、きっとこっぴどく叱られただろうなぁ。そう言えばあの頃、講談社のシリーズを引き上げる作家さんが続出して、何があったんだろうと不思議に思ったことを思い出しました。
 小野さんのインタビューは相変わらず冷静で理知的、そうでなければあれだけの緻密な内容は書けないでしょうとも。それでもクライマックスをあれだけ盛り上げる技量、凄い。
 どうぞお体に気を付けて、無理はなさらないで下さい。短編集、心よりお待ちしています。