読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

追想五断章 米澤穂信著 集英社 2009年

 ネタばれになってるかも、すみません;

 突然父が死んで、大学の学費が払えなくなった。菅生良光は休学して伯父の古書店に居候、金の工面に悩んでいる。
 とある学者の遺品の蔵書を引き取った翌日、店に北里可南子と名乗る女性が現れた。彼女は、死んだ父 北里参吾が書いた小説を探している、昨日の蔵書の中にそれが載った同人誌がなかったかと訊いてきた。無事に見つけて渡せた折、可南子は芳光に、残り四篇の小説も探して欲しい、と依頼してくる。内容は全てリドルストーリー、読者に結末を委ねるタイプで、しかし父の遺品の中には結末の一文のみが残っていたのだとか。
 報酬に目が眩んで引き受ける芳光。同人誌の寄稿者を調べて伝手を頼ったり、可南子からの情報を得て一緒に参吾の旧友を訪ねたり。やがて参吾が、異国の地での妻の死について容疑者として疑われた過去が浮かび上がって来る。その告発記事『アントワープの銃声』を書いた記者にも、どうやら参吾は作品を送り付けていたらしい。
 ルーマニアで、眠り続ける娘を溺愛する母親を書いた『奇跡の娘』。
 インドで、殺人よりも死体を傷つける方が罪が重い、妻子にまで罰が及ぶ地域での裁判を書いた『転生の地』。
 中国南宋時代、采配を違えて敗北した将軍に、自己評価を迫る『小碑伝来』。
 ボリビアで、隧道の中を通って金を持ってくる妻と娘、だがその隧道には革命軍が罠をしかけたという噂があった。妻と娘は無事に辿り着けるのか『暗い隧道』。
 どれも妻子と夫との関係、切羽詰まった選択を描いている。それぞれの作品が、妻の死の状況とリンクすることに気付いた芳光は、それが告発記事へのアンサーだと察する。内容の重さに耐えかねて残り一篇の在処を推測しながらも捜索を辞退したが、疑念は消えない。リドルストーリーの結末は、それぞれの小説とあっているのか。
 しばらくして、可南子から最後の小説『雪の花』が見つかったと手紙が届く。幼い頃にやってしまったかもしれない行動についての告白も。…

 米澤さんの作品って基本暗かったんだ、と今更ながら気付きました。暗くて重い(笑)。
 面白かったです。私は 結末がはっきりしない作品はあまり好きではないのですが、こういう扱い方があったか、と目からウロコ。いや、途中、あれ、これどの作品に対するどういう結末文だったっけ、とごっちゃになったりしたんですが、それは私の記憶力のなさが原因ですし(苦笑;)。北村薫さんも好きそうな題材だな、とも思いました。文体やら何やら、まるで違う雰囲気の作品になりそうですけど。
 最後に見つかった小説が、最後の一文読んでもよく私には分からなかったんですが、これ、旦那さん妻を愛していたのか、そうじゃなかったのか。エキセントリックな妻に対し、愛憎半ばだったのか。でも、娘さんへの愛情は確かにあったんでしょうね。真実はともかく、それをいいように受け止められるよう細工していた訳だから。

 

エチュード春一番 第三曲 幻想組曲[狼] 荻原規子著 角川文庫 2021年

 シリーズ三作目。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 子犬の姿をした八百万の神・モノクロと暮らす大学生の美綾。読んだばかりの『将門記』の話をモノクロにしていると「その時代を見たくはないか」と言い出した。モノクロも将門の名には覚えがあるが、はっきり思い出せないので確認したいらしい。ついでに連れて行ってくれるということで、美綾の意識も10世紀に飛ぶことに。
 将門は丁度父親を殺されたばかり、その犯人もはっきりとはわからないまま領地相続について継母と揉めていた。父の土地は弟に譲って、将門自身は新しい領土を開墾しようと計画する穏やかさ、だが伯父は将門を討とうとしているらしい。少し前までは娘を嫁がせる話まで出ていたというのに。
 将門の周囲は不穏な空気に満ち、モノクロは何者かの怨霊が左右しているせいだという。蝦夷の地から将門を護るため派遣されていた少女ユカラも巻き込まれた。やがて、”えやみ”と呼ばれる邪悪な呪術が絡んだ争いが起きる。将門はその影響を受け、同族を殺そうとしていた。ユカラは「山の民」である狼たちと共に戦場へ向かう。…

 平将門についての知識はあまりなく(おかしいな、何冊か小説読まなかったっけ・苦笑:)、そうか、血縁関係こんな感じなのか、こんな背景があったのか、と読みました。
 お話自体は面白かったんですが、シリーズとして唐突な感じは否めず; あれ、前までこんな、時空を旅するような展開あったっけ??と首を傾げました。どうも全体像が見えてこないなぁ、どういうお話になるんだろうなぁ。まぁ、続きが出たら読むんですけどね(笑)。
 あと、何だか美綾に好意が持てないのは何故なんだろう(苦笑;)。

追憶の烏 阿部智里著 文藝春秋 2021年

 『八咫烏』シリーズ。
 ネタばれあります、すみません;

 雪哉が外界へ留学している最中に奈月彦が刺殺された。何者かに呼び出され、二人の側近もろとも殺された。幼い姫宮に次の金烏を継がせようと計画中だったが、四家の反発を受けてまだ志半ばだった。
 黒幕は紫雲の院として、実行犯は誰なのか。日頃慎重な行動をとっていた奈月彦が、何故うかうかと誘いに乗ったのか。その日から姿を眩ませた、下働きの女三人が怪しいと、捜査にかかる雪哉。犯人には、護衛の明留が、死してなお放さなかった噛み痕がついている筈だった。そしてそれは、奈月彦の妹 藤波の羽母の腕にあった。
 事件が解明され、長束を後見に姫宮を立子するつもりだった雪哉たち。だが凪彦なる幼児が現れ、親王として宣下される。凪彦は前金烏 捺美彦とあせびの御方の間にできた子で、長束も雪哉も、その存在すら知らなかった。奈月彦の統治方法に不満を募らせていた南家と東家は、秘かに奈月彦の一派の失脚を謀っていた。
 徹底抗戦を主張する浜木綿の御方。雪哉は、もう受け入れるしかない、山内で争っている局面ではない、と説得にかかる。だがそれは血気に逸る浜木綿には受け入れられず、奈月彦の遺言書にも否定された。そして雪哉は東家側に寝返る。浜木綿と姫宮に追手を掛けるが、天狗の助力を得て二人は行方をくらます。
 そして十余年。官吏試験に、西家の真赭の薄の娘だと言う少女が現れる。奈月彦とそっくりの容貌を持つ彼女は、澄生と名乗った。…

 …こう来るか…!
 奈月彦が殺されるとは思いもしませんでしたし(あの死にざまはアニメ『ハウルの動く城』のハウルだよなぁ)、今更あせびの方が出て来て「えええええーーーー!!!??」。藤波なんて「誰だっけ?」、すっかり記憶の外でしたよ(←おい;)。
 雪哉が切ない。独りになっちゃったよ、同窓ほぼほぼ死んじゃったよ; 誰より冷静で理が勝つ性分が仇になった感じ、山内全体のことを考えてたのは雪哉だったのに。理解者だった筈の奈月彦にも、裏切られたような形になっちゃったもんなぁ。奈月彦は雪哉が留学から帰ってきたら、何を相談しようと思ってたんだろう。
 「真の金烏」の価値が形骸化してた、ってことなのかしら、四家のあの反応は。でも相手側の言い分聞いてると、そりゃちゃんと説明されなければ、ああいう風に考えるかもとも思えてくる。コミュニケーションって大事だよなぁ(しみじみ)。
 成長した姫宮(おそらく)が現れて、今後どうなることやら。何だか『彩雲国物語』にもなりそうな気がしますが。
 えらい展開になりました。

井上倫宏さん

 ネットで訃報を知りました。

 『ER 緊急救命室』のグリーン先生でお声と名前を意識しました。
 誠実で温厚、知性がにじみ出る声。それを利用して、裏切る形での『コードギアス』のシュナイゼル閣下。
 昨年『フルーツバスケット』の新作アニメを見ながら、ああ、旧作では師匠 草摩籍真は井上倫宏さんだったな、穏やかで暖かであっちもよかったよな、と思いを馳せた所でした。

 まだそんなお年じゃないのに、残念でなりません。
 ご冥福をお祈り致します。

中野のお父さんの快刀乱麻 北村薫著 文藝春秋 2021年

 文芸誌『文宝』編集部に勤める田川美希が出会う文学上のエピソードあれこれに、彼女の父親が答えを出していく『中野のお父さん』シリーズ3作目。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 大岡昇平の真相告白
 大岡昇平の『武蔵野夫人』について。元々は『武蔵野』というタイトルだったのに、「夫人」がついた経緯とは。当時の編集長が考えたという説を、随筆を丁寧に読み返すことで覆す。

 古今亭志ん生の天衣無縫
 古今亭志ん生の奥さんが、蚊帳売りに酷い品を売りつけられ、でもその支払いはルーブル紙幣で払っていたというエピソードの変遷。

 小津安二郎の義理人情
 小津安二郎の映画に原作者としてテロップされる里見弴。だが、原作を読んでみると内容は映画と全く違う。当時の映画事情も踏まえ、真相が明かされる。

 瀬戸川猛資空中庭園
 夭折した評論家 瀬戸川猛資が寄稿した同人誌が出て来た。映画『動く標的』についての考察、見事だが微妙な記憶違いがある。菊池寛の学生時代に作った俳句の変遷にも似て。

 菊池寛の将棋小説
 『小説文宝』で将棋特集を組むことになって、浮上したのが菊池寛『石本検校』。作中の棋譜は、果たして名譜なのか。

 古今亭志ん朝の一期一会
 村山先生との昼食会で、古今亭親子の話に花が咲いた。百合原ゆかり編集長の義父が志ん朝好きで、義父が亡くなってからは義母が蔵書等を読んでいると言う。ある噺を聴きたがっている、という相談に、いそいそCD全集を貸して下さったが、どうも義母の望むものではなかったらしい。ピンポイントでの希望の品を、お父さんが推測してみせる。…

 太宰治松本清張大岡昇平が同い年とは知らなかった。…と驚いたところから始まったシリーズ3冊目。
 前振り等として交わされる会話に、こちらの記憶まで刺激されました。そう、私もお芝居観に行って、思わず拍手して、それが全体に広がって行ったことがある。妙に快感だったなぁ。映画や漫画で、確かにあった筈の場面やセリフが見当たらないとかも経験あるなぁ。(いわゆる「大統領のヘルメット」(Ⓒ岡田斗司夫氏)ですね・笑)
 あっという間に関連知識や蔵書が出てくるのは相変わらず、どんな記憶力してるんだ、羨ましい。書籍やレコード、CDの整理もちゃんとしてるってことですよね、凄いなぁ、できないなぁ。私、この間からよしながふみ著『大奥』の12~16巻を探してるけど見つからないんだよ、苦ぅ;;
 アニメ監督の望月智充さんまで登場されて驚きました。実際にあったイベントを元にして書いてらっしゃるんでしょうね。北村さんの自著『謎のギャラリー』まで出て来たし。もう20年も前の本なのか…! いや、メタ感たっぷりでしたね、コロナだの市松模様の流行だの、時節にも沿ってて。
 ギリシャ神話のアルゴー船のくだりとか、私も知らなかったなぁ。好きでそこそこ読んでたつもりなんだけど。

 豊かさには、そういう、人を甘やかす罠がある 

 の一文にはどきりとしました。でも元には戻れないだろうし。

 さて、手塚くんは美希さんに気がある様子、これ美希さん気付かないか、普通??
 そのあたりも北村さんの「理想の娘」を書いているのかしら、と思ってしまいました(笑)。

SIP 超知能警察 山之口洋著 双葉社 2021年

 この作品をお好きな方は、この記事を読まない方がいいと思います。

 戦争と犯罪の境界がなくなった近未来、AI捜査を武器に、敵対国家、テロリスト、犯罪者を取り締まる「超知能警察」が誕生した!
 2029年、科警研情報科学を研究する逆神は、異なる3つの奇妙な事件の検証を命じられる。日本海側各県における無戸籍児童増加の背景調査、防衛省管内における連続不審事象の真相解明、東北各県における「卒業アルバム」損壊多発事件の背景調査。彼は自らが率いる情報科学第四研究室をあげて解明に挑むものの、それは、2026年成立した統一朝鮮共和国を含めた東アジアの安全保障をも脅かす危機の端緒にすぎなかった。
 現役AI研究者の著者が放つ、近未来ハイテク警察小説。 (出版社紹介文に付け足しました)

 読むのに物凄く時間が掛かりました。何でこんなに読んでも読んでもアタマに入って来ないんだろう、と思いながら。まぁこれは私の資質の問題なんですけど(苦笑;)、最終的にはもういいや、って飛ばし読みしました、すみません;
 この作者の作品読むたび毎回言ってるんですが、どうしても別の作品を連想して、その亜流だと感じてしまう。今回はテレビドラマでしたね、軽妙洒脱なやりとりをしながらの警察もの、バイオレンスもありつつの。MIU404とか、アンナチュラルとか。(MOZUも思ったんですが、これは私しっかり見てないので;) 登場人物の人物造形なんかは、比べるのもどうかと思うほど薄い。後半のアクション場面は、どうも動きだの場所の情景だのがうまく思い描けなくて、やっぱり飛ばし読みしました、すみません;
 逆説的に言うなら、TVドラマにしたらいいと思います。腕のいい脚本家さんとタッグを組んで、エピソードを増やして、最初の2~3話で仕事内容を説明しながら、実は…って感じで過去が繋がっていく。この小説内容ではまだ下敷きだよなあ。
 ストリートチルドレンのこととかまだ解決しきってない問題もあるので(それともあれは全員死亡で解決なのか?)、続編への色気はあるんでしょうか。…う~ん。

聲の形 1~3巻 大今良時著 講談社少年マガジンコミックス 

 石田将也は退屈を嫌う小学六年生。ある日、クラスに耳の聞こえない少女 西宮硝子が転校してきた。西宮を気遣い、日常生活がスムースに運ばない。小さな苛立ちがクラスに蔓延してくる。その雰囲気も手伝って将也は彼女を「イジめていいヤツ」と認定、クラスメイトも特にそれを止めなかった。が、やがて、立場は一転する。西宮の母親からの苦情を切っ掛けに将也は吊し上げにあい、今度は将也が教師公認の「イジめていいヤツ」になった。
 高3になった将也はトラウマを引きずって人間不信のまま、過去の清算をしてから自殺しようと西宮に会いに行く。西宮の母親や妹からは拒絶されるが、西宮自身からは「また会いたい」と言われ、自殺を翻意。将也は彼女から奪った幸せを戻そう、と決意する。
 小学生時代に西宮と仲の良かった佐原みよこに連絡を取る将也。同じ頃、かつて西宮を嫌っていたクラスメイト植野も、将也に接近してくる。…

 図書館の書架で見かけたので、借りてみました。
 アニメ映画の方をTVで放送された時に見ていたので、内容は一応把握していましたが、…きつかった。
 否応なく話が流れて行くアニメと違って、自力でページを捲っていかなくてはならない漫画はエピソードがいちいち辛く;; いや、将也のふるまいもふるまいでしたが、周囲の掌返しにも、何この品のない行動は、と心が痛くて。自分がこの教室に居合わせた場合 いじめには絶対加わらない、という自信はあるのですが、それでは加害者と変わらない、というのはかつて『十二国記』読んだ時に突き付けられていましたし、かと言って西宮さんと積極的に関わった佐原さんは偽善者扱いされてハブられて不登校になるし、もうどうしたらいいんだ、って感じで。こら駄目だ、ってんで心の一部を意識的に閉じて読みました。
 2巻になると、心の辛さは少しはましになりました。永束くん、出てくるとほっとするなぁ。小学校の時の償いをしようとする将也、でも植野がちょっかいかけてきます。

 小学生の頃の悪ガキっぷりからすると、将也くん一部の女子にモテてたのかもな、とは思うんですが、今の将也にそんな魅力があるか、っていうとちょっと疑問で、これは植野さんの好意は罪悪感もプラスされての感情なのかなぁ。同じく、罪悪感があるから将也は硝子の気持ちにも気付かないし、恋心にもならないし。…いや、そもそも硝子なんで将也を好き(ですよね??)なんだ??
 これから小学校の同級生が出て来て、過去の清算(?)になる訳ですよね。
 ちゃんと読めるかなぁ、私(…;)。