読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

中野のお父さんの快刀乱麻 北村薫著 文藝春秋 2021年

 文芸誌『文宝』編集部に勤める田川美希が出会う文学上のエピソードあれこれに、彼女の父親が答えを出していく『中野のお父さん』シリーズ3作目。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 大岡昇平の真相告白
 大岡昇平の『武蔵野夫人』について。元々は『武蔵野』というタイトルだったのに、「夫人」がついた経緯とは。当時の編集長が考えたという説を、随筆を丁寧に読み返すことで覆す。

 古今亭志ん生の天衣無縫
 古今亭志ん生の奥さんが、蚊帳売りに酷い品を売りつけられ、でもその支払いはルーブル紙幣で払っていたというエピソードの変遷。

 小津安二郎の義理人情
 小津安二郎の映画に原作者としてテロップされる里見弴。だが、原作を読んでみると内容は映画と全く違う。当時の映画事情も踏まえ、真相が明かされる。

 瀬戸川猛資空中庭園
 夭折した評論家 瀬戸川猛資が寄稿した同人誌が出て来た。映画『動く標的』についての考察、見事だが微妙な記憶違いがある。菊池寛の学生時代に作った俳句の変遷にも似て。

 菊池寛の将棋小説
 『小説文宝』で将棋特集を組むことになって、浮上したのが菊池寛『石本検校』。作中の棋譜は、果たして名譜なのか。

 古今亭志ん朝の一期一会
 村山先生との昼食会で、古今亭親子の話に花が咲いた。百合原ゆかり編集長の義父が志ん朝好きで、義父が亡くなってからは義母が蔵書等を読んでいると言う。ある噺を聴きたがっている、という相談に、いそいそCD全集を貸して下さったが、どうも義母の望むものではなかったらしい。ピンポイントでの希望の品を、お父さんが推測してみせる。…

 太宰治松本清張大岡昇平が同い年とは知らなかった。…と驚いたところから始まったシリーズ3冊目。
 前振り等として交わされる会話に、こちらの記憶まで刺激されました。そう、私もお芝居観に行って、思わず拍手して、それが全体に広がって行ったことがある。妙に快感だったなぁ。映画や漫画で、確かにあった筈の場面やセリフが見当たらないとかも経験あるなぁ。(いわゆる「大統領のヘルメット」(Ⓒ岡田斗司夫氏)ですね・笑)
 あっという間に関連知識や蔵書が出てくるのは相変わらず、どんな記憶力してるんだ、羨ましい。書籍やレコード、CDの整理もちゃんとしてるってことですよね、凄いなぁ、できないなぁ。私、この間からよしながふみ著『大奥』の12~16巻を探してるけど見つからないんだよ、苦ぅ;;
 アニメ監督の望月智充さんまで登場されて驚きました。実際にあったイベントを元にして書いてらっしゃるんでしょうね。北村さんの自著『謎のギャラリー』まで出て来たし。もう20年も前の本なのか…! いや、メタ感たっぷりでしたね、コロナだの市松模様の流行だの、時節にも沿ってて。
 ギリシャ神話のアルゴー船のくだりとか、私も知らなかったなぁ。好きでそこそこ読んでたつもりなんだけど。

 豊かさには、そういう、人を甘やかす罠がある 

 の一文にはどきりとしました。でも元には戻れないだろうし。

 さて、手塚くんは美希さんに気がある様子、これ美希さん気付かないか、普通??
 そのあたりも北村さんの「理想の娘」を書いているのかしら、と思ってしまいました(笑)。