読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

彼女が生きてる世界線! 中田永一著 ポプラ社 2024年

 僕は死んだ。仕事からの帰り道、信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれて死んだ。
 目が覚めたら、僕は大好きだったアニメ『きみといっしょにあるきたい』の中の登場人物になっていた。しかも悪役の城ケ崎アクトに。
 前の世界で、何度も見て涙を流したアニメ。死ぬ寸前まで僕はヒロインの歌を聴いていた。ヒロイン葉山ハルは、作品中白血病で死ぬ。彼女の声を担当した声優も作品終了後亡くなっており、僕は二度と聞けないと思っていたハルの声を、この世界で聞けることになった。僕は彼女の死を回避しようと、この世界で全力を尽くす。
 アクトの家は大富豪だったので、不仲だった父親に 医療関係に資金を注ぐよう働きかけた。代わりに、前の世界で大ヒットしたゲームの数々をアイデアとして提供する。骨髄ドナー登録者が増えるようボランティアでビラ配りをし、本来の主人公 佐々木蓮太郎が葉山ハルと仲良くなるよう色々お膳立てをした。
 僕の知っている筋書きとは変わっていく世界、だがやはりハルは発病し、どの治療も今一つ効果を発揮しない。でも、どこかに生存ルートはある筈。この世界の神――シナリオライターは、きっと彼女を生かす方法も考えていたに違いない。両親のいない彼女が持つ 唯一の母親の写真を手掛かりに、僕はハルの兄の存在を確信する。ドナーになってくれるかもしれない兄を、僕は財力をフル活用して探し始める。いずれ、城ケ崎家が転落するその前に。…

 昨今流行りの異世界転生ものが、ポプラ社というジュニア小説分野にまで広がっているとは驚きでした。ラノベと変わんないじゃん。
 乙女ゲームの悪役令嬢に転生、ってのはよく見かけますが、男性ものでもあるんですね。しかも物凄く人相が悪いという…。色々バリエーション生み出してくるよなぁ。
 情報を多く持っている、というチート能力で異世界を渡っていく、という展開はあるあるなんですが、それが版権問題だったり、普通のサラリーマンの礼儀作法だったりプレゼン能力だったり我慢強さだったり、とういうのが新鮮でユーモラス。それは日常生活でもそうで、アクトにしてもその取り巻きの桜小路姫子や出雲川史郎にしても、そのとんでもない贅沢っぷりが妙に可笑しい。で、そのお金の使い道が「正しい」んだよなぁ。経済力があったらこれだけのことができますよ、と提示されているよう。勿論、彼女の発病等お金では阻止できないことも描かれてるんですが、それでも「財力があること」を肯定的に捉えているのは珍しいような。
 それを言うなら、前世の職業サラリーマンを肯定しているのも珍しい。前世でやり残したこと、後悔していることを異世界で挽回する作品が多い気がするのに。
 二次創作についても当たり前のようにさらりと触れられてていましたね、タブーじゃないのね。
 『きみある』のファンだっただけあって、ハルと恋仲になるのは蓮太郎だと信じ切ってるアクト。原作とは変わった世界で、ハルの好意に気が付くのはいつになることやら。
 後味のいい作品でした。