読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

21世紀東欧SF・ファンタチスカ傑作集 時間は誰も待ってくれない 高野史緒編 東京創元社 2011年

 21世紀に入ってからの東欧SF・ファンタチスカの精華、十カ国十二作品を、新進を含む各国の専門家が精選して訳出した日本オリジナル編集による傑作集。

オーストリア
  ハーベムス・パーパム(新教皇万歳) ヘルムート・W・モンマース/識名章喜
 遠い未来、宇宙のすみずみに布教したカソリック教会は、異星人やロボット、非ヒューマノイド枢機卿たちをも含んだコンクラーヴェ(教皇選出会議)を行う。三十回にならんとする投票の行方を、全宇宙が固唾を呑んで見守る。そして選ばれたベネディクトゥス十七世の後継者は…。

ルーマニア
  私と犬 オナ・フランツ/住谷春也訳
 息子を尊厳死させた後の長い生を一人で生きて行く男の物語。

  女性成功者 ロクサーナ・ブルンチェアヌ/住谷春也訳
 成功した女性が求めたのは人生の伴侶。理想のアンドロイドを購入したのに、結局一緒になったのはその時相談した心理学者。でも時が経つにつれ、二人はすれ違う。この関係にピリオドをうつには…。

ベラルーシ
  ブリャハ アンドレイ・フェダレンカ/越野剛訳
 チェルノブイリ後に汚染地域に残った人々の、好むと好まざるに関わらず荒廃していく日常。

チェコ
  もうひとつの街 ミハル・アイヴァス/阿部賢一
 ある雪の降る日、プラハの古本屋で見つけた紫色の装丁の書物。見たことのない文字で綴られたそれは、「もうひとつの街」の存在を示唆していた。奇妙な生命が宿り、私達の街より古くから存在する、だが私達が何も知らない世界。とあるビストロで出会ったウェイトレスは、自分の夫はしばしば境界を越えて、別の世界の住人になっていると不安げに話す。今では娘も通っているのではないかと恐れている、と。娘に導かれるまま、「私」はもうひとつの街に迷い込む。

スロヴァキア
  カウントダウン シチェファン・フスリツァ/木村英明訳
 戦闘的平和団体がヨーロッパ十数カ所の原発を攻撃対象に、中国共産党体制に対して民主主義の為の戦争を布告するよう要求するIFもの。

  三つの色 シチェファン・フスリツァ/木村英明訳
 スロヴァキアとハンガリーの間に起こった架空の民族紛争。
 
ポーランド
  時間は誰もまってくれない ミハウ・ストゥドニャレク/小椋彩訳
 万聖節の日、現在のワルシャワと重なって、既に失われた過去のワルシャワが現れる。主人公は祖父の思い出コレクションを完成させるために、その危なっかしい幻の中に踏み込んでいく。

旧東ドイツ
  労働者階級の手にあるインターネット アンゲラ&カールハインツ・シュタインミラー/西塔玲司訳
 時は1997年。あるハイテク研究所で働く東独出身の主人公の元に、今や存在しない筈の東独ドメインのメールが届く。しかも差出人は彼と同姓同名の何者かだ。考えた挙句、彼は密告と検閲が当たり前だった東独で見につけた東独仕様の「東独っぽい」返事を書くのだが…。

ハンガリー
  盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者 ダルヴァシ・ラースロー/鵜戸聡訳
 時は清朝時代のような、所は中国らしき国。かつて竜達が数千年間殺し合った土地に作られた麗しい庭園がある。ある時、その庭園の所有者である公のもとに盛雲(シェンユン)と名乗る男が現れ、私は誰に見つかることなくこの庭園に一日隠れていることができる、と言い出す。やがて盛雲はこう言い出す。私は、一年でも、十年でも、公の一生の間でも。この庭園に隠れていることができる、と……。

ラトヴィア
  アスコルディーネの愛―ダウガワ河幻想― ヤーニス・エインフェルズ/黒沢歩訳
 舞台は帝政ロシア時代。ある日突然、正体不明の船がダウガワ河に現れる。水底から誘う女、秘密を隠した地下室、水棲生物に変身する男、旅の冒険と裏切り。幾つかの物語が重なり合う。

セルビア
  列車 ゾラン・ジヴコヴィッチ/山崎信一訳
 名門銀行の上級顧問ホートーニン氏は、ある日、列車の一等コンパートメントで神と出会う。何故かはわからないが、彼はそれが神であることが分かってしまったのだ。神はホートーニン氏に、「どんな問いにも答える」と言う。…
                             (粗筋はほとんど各短編の解説より引用しました)


 面白いと思えるかどうかはともかく、とりあえず抑えとかなきゃな、と思う本というものがありまして。…いやな読書の仕方だよなぁ(苦笑;)。
 案の定、「訳分からん;」と思う作品もあり、重すぎる作品もあり、勿論「面白い」と思う作品もあり。多分、「面白い」と思った作品と言うのは、「東欧っぽくない」作品なんじゃないかな、と思ったり。歴史背景や民族背景は、申し訳ない、分からないけれど、普通に作品として面白い。『ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)』や『女性成功者』、『列車』もそうですね。星新一作品がロシアで喜んで読まれている、という話を聞いたことがあるのですが、なるほど、確かに似た雰囲気あるかも、と思いました。『盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者』みたいな作品は、日本でも書かれてそう。
 「東欧」にオーストリアが入るってのはちょっと驚きました。でもそうか、旧東ドイツ入れるんならおかしくはないのか。
 出版が大変だっただろうなぁ、と言うのは素人にも想像がつきました。出して下さって、ありがとうございました。