読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

とりどりみどり 西條奈加著 祥伝社 2023年

 連作短編集。

 螺鈿の櫛
 万両店の廻船問屋『飛鷹屋』の末弟・鷺之介は、齢十一にして悩みが尽きない。かしましい三人の姉――お瀬己・お日和・お喜路のお喋りや買い物、芝居、物見遊山に常日頃付き合わされるからだ。遠慮なし、気遣いなし、毒舌大いにあり。三拍子そろった三姉妹の傍にいるだけで、身がふたまわりはすり減った心地がするうえに、姉たちに付き合うと、なぜかいつもその先々で事件が発生し……。そんな三人の姉に、鷺之介は振り回されてばかりいた。
 願うのは三姉妹の早くの嫁入り、さっさと金食い虫の姉たちを追い出して、堅実な長兄 鵜之介の右腕として働きたい。先日漸く長姉お瀬己が片付いたと思ったのに、早々にえらい剣幕で実家に帰ってきた。何でも亡き母 お七の形見の櫛が失くなったのだとか。嫁ぎ先に盗人がいる、とまくし立てるお瀬己。婚家の舅と婿が揃って謝りに来たが、彼らが「見つかった」と持って来た櫛は、全くの別物だった。 

 ふういんきり
 歌舞伎見物は早朝から夕暮れまでの一日仕事。姉たちの付き添いに飽いた鷺之介は、升席にいた子供 五百吉と友達になった。幕間に遊んでいるうち、五百吉とその妹おつきが、商人風の男に付きまとわれていることに気づく。四日前、稲荷の境内でぶつかった男だという五百吉。おつきの言う贔屓演目「ふういんきり」を誤解しているらしい。

 箍の災難
 五百吉と遊ぶため、箍回しの稽古をしていた鷺之介。なかなか上手く行かないのを見かねて、お日和は来てまだ日の浅い奉公人 根津松に指南を依頼した。その甲斐あって、往来で箍を回せるほどに上達した鷺之介。だが、ひょんなことから素行の悪い武士に絡まれてしまう。その武士に誰よりも激怒したのは根津松だった。

 とりかえばや
 三姉お喜路は戯作者志願。贔屓の戯作者 竹林丙歳の新作に感動し、弟子入りする、と家を飛び出した。付き従う鷺之介、だがお喜路も丙歳の居場所を知っている訳ではなく、版元に尋ねても「丙歳から口止めされている」と埒が明かない。その代わりに、と丙歳の元門人 梅木一刻歳を紹介された。何でも一刻歳の実の兄が丙歳の娘婿なのだとか、一刻歳を伝手に丙歳まで辿り着いてやる、と息巻くお喜路の前に、一刻歳が襲われたとの報が入った。現場には丙歳の新作の草稿の切れ端、一刻歳は何故そんなものを持っていたのか、お喜路は違和感を持つ。

 五両の手拭
 飛鷹屋の周りをうろつく男がいる。手拭い屋の主人とかで、長姉が秋葉祭りで買った字模様の手拭いを返して欲しいとのこと。あまりにも切羽詰まった様子に、疑念を抱くお日和。改めて手拭いの柄を確認して、三姉妹はそれが何を表しているのか気付く。

 鷺と赤い実
 ある日、母親の月命日に墓参りに出かけた鷺之介は、墓に置き忘れられていた櫛を発見する。その櫛は亡き母お七が三姉妹のためにそれぞれ一つずつ誂えたものと同じ意匠だった。鷺と七竈、これはお七のものではないか。鷺之介の直前に墓を訪れた男を探す鷺之介、どうやら長兄や長姉、それに次姉も何か知っているらしい。

 とりどりみどり
 鷺之介は鵜之介から、己の出自を聞く。お七の覚悟や、飛鷹屋主人鳶右衛門の思いも語られる。…
               (出版社の紹介文に付け足しました)

 面白かったです。母親の違う兄姉たち、それぞれ個性豊か。
 札束で頬っぺた引っ叩くようなお金の使い方をする姉さんたち、金遣いは荒いんだけどその品の無さも承知して悪ノリして、とにかく明るい。金銭に振り回される周囲を睥睨しているよう。傍で鷺之介が嘆いているのも効いてるのかな。
 不当に扱われる女性たち、男の方も世間体に縛られてはいるのですが、最終話で鳶右衛門がぼやくと言うか反省する様は、可笑しくもちょっと溜飲が下がる思いがしました。
 新シリーズ、になるのかしら。お日和とお喜路の母親は出てきてないし嫁入り先も決まってないし、根津松もまた出て来てほしいし。ちょっと楽しみです。