読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

まるまるの毬 西條奈加著 講談社 2014年

 連作時代小説。
 ネタばれになってるかも、すみません;

江戸は麹町の菓子舗「南星屋」。
繁盛の理由は、ここでしか買えない日本全国、名菓の数々。
若い時分に全国修業に出、主の治兵衛が自ら歩いて覚えた賜物である。
娘のお永、孫のお君と親子三代、千客万来
でもこの一家、実はある秘密を抱えていて……。
思わず頬がおちる、読み味絶品の時代小説!

「たかが菓子だ。そんな大げさなものじゃねえさ」
武士から転身した変わり種
諸国の菓子に通ずる店の主・治兵衛

「お団子みたく、気持ちのまあるい女の子になりなさい」
菓子のことなら何でもござれ
驚異の記憶力を持つ出戻り娘・お永

「お菓子って、面白いわね、おじいちゃん」
ただいま花嫁修行中!
ご存じ、南星屋の”看板娘”・お君    (紹介文より)


 治兵衛が作った菓子 印籠カステラが、平戸藩松浦家がお上に献上するお留め菓子カスドースとそっくりだ、と訴えられた。製法をどうやって盗み出したのか、厳しく問い詰められる治兵衛。印籠カステラとカスドースの違いを伝えるため、治兵衛は新たな製法を開発する。

若みどり
 武家の子供と思われる小さな男の子 翠之介が、治兵衛の弟子になりたいと南星屋を訪ねてきた。このまま受け入れてはいけない、と思いながらも、翠之介の素直な気性に孫息子ができたようで嬉しい治兵衛。だがある日、とうとう翠之介の父親が南星屋に乗り込んで来る。翠之介と父親との間には、ある屈託があった。

まるまるの毬
 娘のお永の様子がおかしい。お君はお永が恋をしている、と言う。相手を突き止める、と張り切るお君がお永の後をつけて目にした相手は、浮気が原因で別れた元の亭主だった。

大鶉
 実家・岡本家を訪れた治兵衛は、兄の忘れ形見 甥の慶栄の軽率な振舞いに眉を顰める。出入りの菓子屋柑子屋からのあけすけな当てこすりにも戸惑いつつ、懐かしい家で、治兵衛は自分が菓子屋になるきっかけとなった菓子、弟のために拵えた大鶉を思い出す。

梅枝
 カスドースの一件以来、南星屋をよく訪れる平戸藩賄方の河路金吾。飽きもせず治兵衛の菓子作りの様子を見る河路は、密かにお君への想いを育んでいた。郷里の父親が倒れたことが背中を押し、河路はお君を嫁にほしい、と申し込んで来る。

松の風
 お君を岡本家に行儀見習いにやった治兵衛。寂しいながらも孫娘の幸せのために、と気持ちを奮い立たせる治兵衛の前に、柑子屋の主人が立ち塞がる。己の才覚のなさを棚にあげ、すっかり左前の柑子屋は治兵衛を妬み、南星屋を潰そうと目論んでいた。

南天
 治兵衛の出生の秘密が漏れた。あわせてお君の縁談も破談になった。岡本家は格下げになり、出家していた弟も職を辞した。全て自分のせいだ、と悩む治兵衛と同じように、お君も苦しむ。そんな折治兵衛に、御三家である紀伊家の当主が昔食した菓子を再現してほしい、との依頼が舞い込む。…


 西條奈加さんという作家さんは、時々スマッシュヒットを飛ばすなぁ。
 面白かったです。各地の名物菓子にちょっとした工夫を凝らしたお菓子、自分の出自を隠すように、目立たぬように暮らして来た治兵衛が、最後にはオリジナルの菓子作りに励む。自分に向き合って受け入れ、アイデンティティを確立する、っていう象徴なんだろうなあ。
 読んでるうちに連想したのが、羽海野チカさんの『3月のライオン』。お祖父ちゃんと孫娘が新作菓子を考える、で孫娘が「自分が跡取りになる」と言い出すくだりで。
 表紙の大判焼き(?)がまた美味しそうで(笑)。地味と言えば地味な装丁なんですが、これいいなぁ。実は愛情がこもっています、って言うのが伝わってくる感じです。