初出は2006年。
ネタばれになってるかも、すみません；
2年前亡くなったクラスメイト諏訪ノゾミを偲んで東尋坊を訪れていた「僕」嵯峨野リョウは、兄が死んだという知らせに家へ戻ろうとして、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気が付くと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻った「僕」を迎えたのは、見知らぬ「姉」サキ。リョウに姉はいない、流産した筈だ。どうやらここは、姉が生きていた世界、「僕」が生まれなかった世界らしい。
「僕」のいた世界と色々なことが微妙に違う世界、両親の仲も険悪ではないようだ。潰れている筈のアクセサリー屋はあるし、交通を邪魔していたイチョウの木は伐られていて、そのために救急車が遅れることなく、「僕」の世界では脳卒中で寝たきりになった食堂のオヤジも元気で働いている。
サキと共に「僕」がこちらの世界に現れた場所を訪ねてみると、そこに高校生になった諏訪ノゾミが、従妹の結城フミカと共に現れた。こちらの世界ではノゾミが生きていて、しかも明るく楽し気だ。こちらの世界のノゾミは、サキの影響を強く受けているらしい。
動揺を隠せない「僕」の態度を見て、サキは「僕」の世界でのノゾミの様子、その最期を語らせる。それを「僕」に伝えたのがフミカと知って、サキも東尋坊へ行く、と言い出す。サキはノゾミの死を、他殺だと推察した。…
同じ作家さんの本を続けて読むことはあまりしたくないのですが（シリーズ物は別）、予約本が途切れてしまいまして、その間に読む本が他に見つからなくてですね。以前同一作家さんの作品を立て続けに読んで、その人の文章に飽きてしまったことがあたので、できるだけ避けたかったのですが仕方がない。
で、本書です。
米澤さん、パラレルワールドものも書くのね！ …というのは違うのかな。
推理小説なんだけど、メインは推理ではないですよね、これ。「自分がいない、何もかもがうまく行ってる世界」をじわじわと見せつけられる。自分の過去の失策も含めて。…でもこれはそれぞれの任というか人柄があるから仕方ない面もあるんだけど。
ただ、その一つ一つによって主人公がどれだけ追い詰められてるか、ってのは最後のサキへの吐露まで分からなくて、多分それがクライマックス。それがもう一度、サキによって救われる。
リョウくんが悪いんじゃないよ、というのは私も思ったなぁ。あんな両親の元では厭世的に捻くれても仕方ないよ。それを全て自分のせいだと思うのは、…って言ってもあの世界を見た後では無理かなぁ。
リョウくん、あの後ちゃんと親の元に帰ったかな。ノゾミが得られなかったものだから、その代わりに。
