読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

明るい夜に出かけて 佐藤多佳子著 新潮社 2016年

 今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。
 コンビニで一緒に働く鹿沢は、「だいちゃ」と名乗ってボカロの曲を発表している。ある程度ファンがついている実力の持ち主。高校からの友達 永川は、何だかやたら余計なお喋りをして俺の情報を周囲にまき散らす。
 そして佐古田。アニメ声の、小動物のような女子高生。背負ったリュックにはカンバーバッヂがしかも2個、これはアルコ&ピースオールナイトニッポンノベルティ、つまりこのチビ女はヘビーリスナーでハガキ職人だ。空気も読まずバイト中の俺に下ネタ満載で話しかけてくる。
 三人に引きずられるようにして、引きこもりがちだった俺も外に出るようになる。SNSの中で、やがて実生活でも。永川はかつてちょっとは名の知れたハガキ職人だった俺の過去をばらし、挫折の原因となった接触恐怖症と、それにまつわるSNSでの晒しを、そして永川自身の傷も語る。
 一年の猶予期間も終わろうとする日、アルコ&ピースのラジオも存続の危機を迎えていた。自身の進退をもネタにする、リスナーも参加しての攻防。俺も佐古田も永川も、息をのんで着地点を見守る。…
                                       (前半、出版社HPの紹介文を引用しました)


 こんなにも愛の溢れる物語。アルコ&ピースのお二人はこの話を読んだんだろうか、この話をどう受け止めたんだろうか。名前だけ出て来るラジオ芸人さんたち、メインとして扱われるこの二人が羨ましかっただろうなぁ。
 何なんだろう、このあるある感。こっそり同じ楽しみを共有してる嬉しさ、ただ参加せず聞いてるだけでも、知り合いがどんどん増えていく感じ。ましてや、参加しているならなおさら。で、この繋がりが主人公の富山を追い詰め、また救う。
 番組の進退と絡めたラストの盛り上がりは、本当、鳥肌ものでしたよ。
 今私が思い出す似たような感情は、NHKの『ケータイ大喜利』で味わったものです。名前とネタが紹介されて、どんどん常連になっていく。で、その名前が『IPPONグランプリ』でも読み上げられたりして、「え、この人あの人だよね??」っこっそりテンションが上がる。そこがら実際芸人さんになった赤嶺総理さんとかを前段階の番組で見かけて、「うわぁぁあぁ!」と心臓が跳ね上がる。
 心に抱える大切な物、ひっそりした楽しみ、でも共有できる嬉しさ、認められる、認められていた嬉しさ。人生の方向まで見つけた富山くんは、とりあえず大丈夫なんでしょうね。
 やっぱり佐藤多佳子さん好きだなぁ、としみじみ思った作品でした。