読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

江ノ島西浦写真館 三上延著 光文社 2015年

 連作短編集。
 ネタばれあります、すみません;

 江ノ島の路地の奥、ひっそりとした入り江に佇む「江ノ島西浦写真館」。百年間営業を続けたその写真館は、館主の死により幕を閉じた。過去のある出来事から写真家の夢を諦めていた孫の桂木繭は、祖母・富士子の遺品整理のため写真館を訪れる。そこには注文したまま誰も受け取りに来ない、とごか歪な「未渡し写真」の詰まった缶があった。繭は写真を受け取りに来た青年・真鳥と共に、写真の謎を解き、注文主に返していくが―。                              
                                       (帯文より)


第一話
 「未渡し写真」の入った缶の中から出てきた4枚の写真。江ノ島で写したらしい写真は、背景から見て時代がすべて違うのに同一人物としか思えない男が一人写っている。丁度写真を引き取りに来た青年・真鳥秋孝は、うち3枚は祖父と父と自分がモデルだが、一番古い写真だけは誰を写したのかわからないと言う。認知症が進行している祖母は全て自分が撮ったと主張、しかし百年近くも前の写真を、祖母に撮れた筈がない。

第二話
 「未渡し写真」の中に永野琉衣の写真があった。繭の幼馴染で俳優として注目され始めていた矢先、繭がSNSに不用意にアップした写真が流出し、そのためにバッシングを受けて行方をくらませた琉衣。以来、写真をやめてサークル仲間とも琉衣とも疎遠になったと話す繭に、真鳥は写真を返さないのか、と問いかける。その写真を撮ったのは繭の大学の先輩・高坂晶穂らしい。
 4年ぶりに会った晶穂はすでにプロのカメラマンとして頭角を現していた。彼女と話すうち、繭は写真を流出させた犯人に思い当たる。

第三話
 土産物屋の立川研司は、以前、西浦写真館から無断で銀塊を借りたことがある。当時そこで働いていた叔父が「持っていけ」とそそのかしたのだ。結婚、育児、父の介護と年月を重ねて、叔父も死んで、富士子もいなくなった今、借りた銀塊を返すタイミングを失ってしまった研司。まだ写真館にある筈の借用書が気になって、写真館を訪ねる。

第四話
 「未渡し写真」の中に、半ば隠すようにして真鳥の写真を見つけた。真鳥とどうやらその父親とが写っている写真、繭が家まで届けに行くと、父親は繭に何かを探るような視線を投げかける。
 生前、祖母は「悪事の証拠になる」写真がある、と言っていたらしい。この写真に隠された意味とは。…


 新シリーズ、になるのかな。今回も鎌倉が舞台です。
 話に納得できるものもあり、「いや、ちょっと無理ないかい?」と思うものもあり。
 繭の造形が妙にリアルで、自分の才能を過信したゆえの暴走というか傲慢さというか痛さというか、今になると恥ずかしさと後悔しかない、というような境遇に、私自身、身に覚えがありすぎて肩をすくめました。…いや、大なり小なり、みんな通って来た道なんでしょうけど。それにしても、琉衣の写真を流出させた人物の行動は許せるものではないなぁ。変な言い方ですが、繭が嫌いなら繭だけに嫌がらせをするべきで、琉衣を巻き込むのはルール違反だわ。
 現像液の廃液から銀を析出させる、というのにはなるほど、と思いました。昔懐かしい銀鏡反応というヤツですね。そりゃ罪悪感も希薄になるわ、もともと捨てるものだった訳だし。でも銀塊そのまま置いといたら、酸化して真っ黒になってたんじゃないかしら。
 繭と真鳥と琉衣と、これからどうなっていくのかは気になる所です。繭は再びカメラを手に取るのか。琉衣は繭を許した訳ではないようですし、でも祖母の元に身を寄せていた間に、心境の変化はありそうな感じだし。
 そうそう、各話の冒頭にその回で取り上げられている写真のイラストが載ってまして。分かりやすいのは分かりやすいのですが、でもなんかちょっと微妙に違う感じがしたのは私だけでしょうか。ただ単に好みの問題なのかなぁ。