読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ハンニバル戦争 佐藤賢一著 中央公論新社 2016年

 ネタばれになってる気がします、すみません;

 古代地中海の覇権をかけた壮大な物語が、今、幕を開ける―。
 時は紀元前三世紀。広大な版図を誇ったローマ帝国の歴史の中で、史上最大の敵とされた男がいた。カルタゴの雷神・バルにあやかりつけられた名はハンニバル。わかる、わかる、全てがわかる。戦を究めた稀代の猛将軍・ハンニバルが、復讐の名の下に立ち上がり、今、アルプスを超えた。予測不可能な強敵を前に、ローマの名家生まれの主人公・スキピオは、愛する家族と祖国を守りぬくことができるのか?
 『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』に続く「ローマ三部作」、堂々完結。        (帯文より)


 アフリカ北岸の都市国家カルタゴとローマの間に戦火が開かれた第一次ポエニ戦争から19年。ローマに負けて領土を失い、多額の賠償金を背負ったカルタゴが、報復戦として再び攻め上がってきた。
 軍勢を率いるのは将軍ハンニバル、無謀とも言えるアルプス越えを果たし、数に勝ってティヌキス河で、その寒さを利用してトレビア河でローマ軍を圧倒する。ローマにはあくまでもカルタゴ軍を侮る気配が消えず、トラスメヌス湖畔で隘路に追い込まれて大敗してなお、敗因は神事を怠ったから、と言い出す始末。次の独裁官ファビウス焦土作戦を取り、敵地を行軍するカルタゴ軍を干上がらせて追い詰めようとする。上手くいくかに見えたこの作戦も、ハンニバルは二千頭の牛の頭角に着火した松明を括り付けて放つことで立ち塞がるローマ軍をパニックに陥れ、まんまと逃げおおせてしまった。
 ファビウスの不戦作戦はローマ市民には不評だった。軍の上層部でも意見は二分し、血気に逸ったミヌキウスの軍隊は、ゲレオニウムで危うくハンニバル軍の伏兵によって壊滅させられる。それを救ったのはファビウス率いる友軍だった。
 将軍の不和が敗戦の原因である。そう結論付けたローマは、ハンニバルに誘導されるままカンナエへ。ローマ八万の軍隊はカルタゴ軍五万にいいように誘い込まれ、完全に包囲された。
 名門貴族の息子プブリウス・コルネリウススキピオは、死体に隠れて命からがらカンナエから逃れた。五年後、ローマに肉薄するハンニバルを恐れながらも、スキピオハンニバルは勿論、古今東西の戦法に学び、戦術・戦略を極めて行く。イベリアで戦死した父と伯父の後を引き継いでかの地に赴き、ハンニバルの弟マゴ・バルカの治める城塞都市 新カルタゴを、地形を利用して城の後ろに回り込むことで征服する。
 大急ぎで戦士の訓練・物資の調達等に務めた後、バエクラへ。マゴと合流しようとしていたハスドルバル・バルカ軍を、包囲作戦で追い詰める。ハスドルバルはさらにハンニバルと合流しようとイタリアへ。だがスキピオの読みにより待ち構えていたローマ軍に一掃される。
 次はイリパ、カルタゴ軍の残軍をやはり包囲作戦で。暑さと敵の空腹まで味方につけて、だがどうしてもカンナエで味わわされたような殲滅戦にはならない。その時逃げられてしまったカルタゴの指揮官ハスドルバル・ギスコには、後日、西ヌミディアの地で、シュファクス王に引き合わされることになる。シュファクス王は、カルタゴとローマの和平斡旋を望んでいた。
 スキピオは議会に、アフリカ遠征を提案する。ハンニバルをイタリアから追い出すには、故国を攻めるしかない。議会の承認は得られなかったが、スキピオは赴任先のシキリアで力を蓄え、目と鼻の先のアフリカに渡る。スキピオの説得に失敗して結局はカルタゴについたシュファクス王の陣営に夜襲をかけ、ハスドルバル・ギスコの陣営にも火を放ち、その連合軍との再戦で、スキピオは包囲作戦を三度敢行。しかし、やはり完全には遂行できない。ハンニバルの戦上手を改めて噛みしめる中、遂にハンニバルはイタリアを出てアフリカの地に舞い戻った。
 ハンニバルとの会談。始めは双方共に和睦を結ぶつもりだったが、感情的な条件が折り合わず決裂。ザマの地での決戦が始まった。
 戦象部隊を音で蹴散らし、狙うのは包囲殲滅作戦。だが自部隊を温存するハンニバルに、作戦は失敗するかに見えた。…

 
 「ローマ三部作」だったんだ、と帯文見て驚きました。いや、それにしては装丁とか統一感がないような…。後付けじゃないの、と少々意地悪く思ったり。
 ハンニバルというと真っ先に思い出すのは戦象部隊、でもそれ以外の知識があるわけでもなく、「どんな風に戦の天才だったのか」というのは興味がありました。(これは田中芳樹作品の影響だろうなぁ)  佐藤さんの作品ならそりゃ解りやすいだろう、と予約が回ってくるのを待ち構えていました。
 初め、何しろ負けた側からの描写なので、戦況が今一把握できず; 一見何もない所から湧いて出てきた伏兵って何だよ、で、結局どこにどうやって隠れていたんだよ、と結構なストレスに。それが明かされるのは結構最後の方、スキピオハンニバルの戦術に学ぶあたりですね。でも「地形に紛れて隠れてた」みたいな書き方なので、分かったような分からないような感じではあるんですが。
 あんなに包囲殲滅作戦に拘ってたら敵に戦術を読まれやすいんじゃ、と少々疑問にも思いました。最後のザマでの戦いは、「騎兵が戦闘に間に合わない」とハンニバルが勘違いして、この作戦は取れないと判断したからとのことですが。
 凡才でも努力すれば天才に近付ける、でもその最後は双方共に何だか寂しい。奥さんや子供や、忠僕のガイウス・ラエリウスはどうなったんだろう。この時代、自殺と言うと「毒をあおって死ぬ」だったのかな、と妙なことが気になりました。