読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

トイレのピエタ 松永大司著 文藝春秋 2015年

 この作品を気に入られた方は、この記事を読まない方がいいかもしれません。

 画家への夢を諦めて窓ガラス拭きのフリーター生活を送っていた宏は、突然余命三ヶ月の宣告を受ける。残された時間を知るまでは、この夏もいつものように、ただやり過ごすだけの季節になると思っていた。それが人生最期の夏に変わってしまった時、立ちはだかるように現れた女子高生の真衣。
 「私が生きてるんだから生きろ」
 宏は、容赦なくありのままの感情をぶつけてくる真衣に翻弄され、戸惑いながらも、生と死の間に強烈な光を見るが……。
 もっとも純粋で痛切なラブストーリー。        (帯文より …この紹介文、ちょっと違う気がするけど…。)

 
 この題名の映画の公開を知った時、思わず眉を顰めました。
 「…これって、手塚治虫が病床で、意識が無くなる寸前に『素晴らしいアイデアを思い付いた』って日記に書き残していた作品のタイトルじゃなかったっけ…?」
 でも、映画の宣伝ではそのことに触れられてる文言はあまり見かけず、もやもやしていたところ、図書館にこの本が入っているのを見つけて予約しました。その後、やっぱり手塚治虫の最後のアイデアが原案だということを知りました。
 前面に押し出してないのは何故なんだろう。もしかしたら比較されるのをできるだけ避けたかったのかもしれない、何故なら手塚治虫はこんな風な作品にはしなかっただろうなぁ、というのが私にでもわかるから。
 天才の「描かれなかった作品」に挑戦する勇気。それは素直に凄いなと思いますが、手塚ファンの端くれとして、どうしても比べてしまうことは仕方ないと取って下さい。
 例えば、一篇の壮大な物語ではなくても、『ブラックジャック』の中の一話として描かれていたとしたら、『火の鳥』の中の一エピソードだったら。主人公が最後に描く場所は果たして「自宅のアパートのトイレ」だっただろうか、女子高生を描いただろうか。私は「病院のトイレ」に本当のピエタを描いたと思う。
 日記に書かれていたテーマ「浄化と昇天」という文言を、こういう風に使うのか、とも思いましたし。
 この作品を先入観なく正当に評価することは、私には無理です、すみません。