読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

本にだって雄と雌があります 小田雅久仁著 新潮社 2012年

 小田雅久仁、デビュー二作目。

 大阪の旧家で今日も起こる幸せな奇跡。
 本だらけの祖父母の家には禁忌があった。書物の位置を決して変えてはいけない。
 ある蒸し暑い夜、九歳の少年がその掟を破ると書物と書物がばさばさと交わり、見たこともない本が現れた!
 本と本が結婚して、新しい本が生まれる!?                    
                                          (帯文より)

 博は9歳のある朝、祖父・與次郎の家で宙をばさばさと飛ぶ本を目にする。祖父と二人掛かりで捕まえて象牙の蔵書印を押して祖父の説明することには、本にも雄と雌があって、子供を産むことがあるのだとか。「幻書」「昆書」とも呼ばれるそれは、時に予言書の様相を呈することもあり、そういう本は読んでもろくなことにならない。ちなみに読んだ人物にはノストラダムスヒットラーがいて…、とどこまで真実でどこまで法螺か分からないことを言う。
 與次郎は博が11歳の時、飛行機事故で不帰の人となったので、與次郎がどうやって幻書の存在を知り、その収集を始めたのかはとうとう分からずじまいである。ただ、周囲の人の証言や私家本から判断して、察しがつくことも多数ある。実際、博の手元には與次郎が戦争時、兵役についていた頃の幻書「日記№19.5」もあるのだ。
 博は自分の息子・恵太郎に語りかける。自分の祖父がどんな人であったのか、どんな幼少期を過ごしたのか。奇妙な友人を得た学生時代、その頃生涯の妻・ミキと知り合い、結婚し、徴兵されてボルネオ島に飛ばされ、死も覚悟した無謀な行軍の中で見た幻想としか思えない光景、復員してからの日々と、死の状況。そして、與次郎の死後しばらくしてミキに起きた不思議な変化と、その死の際に起こった不思議な現象。何故なら博自身も、幻書をつまみ読んでしまったから。…


 本を開いて思わずうっ、と尻込みしました。
 …黒い。みっしり文字が詰まってる感じ。
 果たして、読むのに結構時間がかかりましたねぇ。内容はとても面白かったんだけど。
 この作家さん、デビュー作がとにかく暗かった覚えがあるんですが、今回は何とも軽やかで明るくて、こっちの方が断然あってるんじゃないかしら。
 あちこちに飛ぶ内容、時系列に沿って、とか作中人物は語るんですが、あまり沿ってるとは言い難い。登場人物、これは與次郎の兄弟だっけ、それとも與次郎の子供だっけ、與次郎の子供の子供(博にとっては従兄弟)の名前だっけ、とぐるぐる。人物紹介は特に時系列に沿ってないから、どこを確認すればいいのかもはっきりせず、「まぁいいか」で読み進める体たらく。…いや、私の記憶力が悪いのがいけないんだけどさ。これ、文庫化とかされたら、登場人物紹介を最初につけといて貰えないかなぁ。
 とはいえ、ボルネア島で見た光景やラディナヘラ幻想図書館の様子は視覚に訴えられました。しかも何故かアニメーション。鳥の大群が飛ぶごとく本が何十冊、何百冊も空を飛ぶ情景、ぼうっと光るキノコ、真っ白の巨大な象、浮遊感。不条理が迫力と感動を持って襲ってくる感じ。與次郎やミキの死の記述には泣きそうになりましたし。ただ終わり方がちょっとくどかったかな。もう終わるかな、と思ってからが長かったです。読み終えた後、何だか妙に幸せではあるんですけど。
 そうそう、「あ、ガンバが肥やしに……」の記述には笑ったなぁ。ドブネズミって実際見ると結構大きくて怖い感じがしますもんね。