読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

アンチェルの蝶 遠田潤子著 光文社 2011年

 遠田潤子、デビュー2作目。
 ネタばれしてしまいますが、もし興味を持たれた方がいらっしゃったら、この先を読まずに手に取られた方がいいと思います。
 面白かったです。…暗かったけど(苦笑;)。

 大阪南港の下町、掃き溜めの町で居酒屋「まつ」を営む中井藤太の前に、25年ぶりに佐伯秋雄が現れた。弁護士になり、すっかり成功した様子の秋雄。彼は一人の女の子を連れていた。子供の名前は森下ほづみ、十歳。二人の中学の同級生、森下いづみの娘だという。秋雄は、ほづみを夏休みの間預かって欲しいと言うと、そのまま店を出て行ってしまった。途方に暮れる藤太。翌日、TVから聞こえてきたのは、秋雄の住むマンションで放火があったというニュースだった。
 少年犯罪を専門に扱っていた秋雄は、被害者の遺族から怨みを抱かれていたらしい。犯人らしい少年の、「秋雄を殺した」と言う犯行の声明と焼身自殺の報道も流れた。
 中学卒業以来、会ったことも連絡すら取ったことさえない女の子供を引き取ろうという秋雄と藤太の行動を、周囲の人間は理解できないと言う。だが、藤太と秋雄はいづみを挟んで、同志であり共犯者だった。藤太と秋雄は
25年前、父親たちを殺していた。賭け麻雀仲間で酒浸りで暴力をふるい、借金のカタに自分の娘の身体を差し出すような父親を、それを喜んで受け取るような父親を。
 陰ながらいづみを救った、と思っていた藤太は、いきなり現れた「ほづみの父親」と名乗る男・坪内に、いづみの災厄が終わっていなかったことを知らされる。いづみはその時撮られたビデオを元に、別の男に強迫された挙句、真相を知ったその男の息子に「罪滅ぼしする」とつきまとわれて、日本全国を逃げ回っていた。そして、自分達が知らぬ間にいづみに守られていたことも。
 秋雄は、いづみは生きているのか死んでいるのか。生きているなら何故連絡が無いのか。先のない日々、酒びたりの毎日を送る藤太に、ほづみの存在は柔らかな光となる。
 どこまでも父親の呪縛から抜け出せない藤太や秋雄。いづみの真意はどこにあったのか。やはり実の父親に狂気じみた感情で追い回されるほづみに同じ轍を踏ませまいと、藤太はどん底から這い上がろうとする。…

 言ってしまうとですね、多分似たような話はあると思うんですよ、ドラマや映画とかでも。人物の造形なんかも、もうちょっと書き込んだらいいのにと思う所もあって、私が特にそれを感じたのは、父親の麻雀仲間の「坊主」にでしたけど。
 でもやっぱりこの迫力は凄い。リーダビリティと言うんでしょうか、次々明らかになる過去に、ああ辛い、酷いと思いながらページをめくり続けてしまう。いづみの菩薩のような心の広さは何なんでしょうね。いづみの母親は宗教にハマって家庭を顧みてなかったけれど、いづみの方がもう体現しているような。
 親からの呪縛はどこまでも彼らを逃がさない。それは坪内も同じこと。その呪いを解くには、赤の他人の方がかえって何とかなるのかも。ラスト、ようやく飛び立ったほづみが、藤太と共に幸せになりますようにと願ってしまうほどに。
 そう言えば、藤太案外お金に余裕あるんだな、と読んでる最中思ったんでした。膝を再治療するための貯金は別にあったみたいだし、何を買い揃えるにも躊躇なかったもんなぁ。