読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

心淋し川(うらさびしがわ) 西條奈加著 集英社 2020年

 連作短編集。
 第164回直木賞候補作。

 心淋し川
 江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、古びた長屋が立ち並んでいる。十九のちほは博奕好きの父を抱え、苦手な針仕事をこなす毎日。仕立物を納める志野屋で上絵師の元吉と知り合い、お互い憎からず思っている様子なのに、元吉から決定的な言葉は出てこない。不安に思うちほが姉にけしかけられた矢先、父親が元吉を殴りつけたと騒ぎが起きた。

 閨仏
 青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、六兵衛が持ち込んだ張方をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだした。意匠が面白いと密かに話題になる中、仏師の郷介はそれをまるで円空仏のようだ、と評する。

 はじめましょ
 裏長屋で飯屋を営む与吾蔵は、仕入れ帰りに立ち寄る根津権現で、小さな唄声を聞く。かつて、荒れた日々を過ごしていた与吾蔵が手酷く捨ててしまった女がよく口にしていた、珍しい唄だった。唄声の主は小さな女の子供。言葉に対する感性がおそろしく鋭い少女とその母親と、与吾蔵は一緒に暮らす夢をいつしか見始める。

 冬虫夏草
 長屋に住む富士之助は、昔大怪我を負ったとかで、歩くことはおろか立つこともできない。荒れる富士之助を、母 吉は献身的に世話する。薬種問屋に嫁いだものの、姑に邪魔されて夫の面倒が見られなかった分も、出しゃばりな嫁に息子を取られて悔しい思いをした分も取り戻すかのように。

 明けぬ里
 ようは父親の借金のカタに、姉の代わりに岡場所に売られた。気の強いようは理不尽な扱いに我慢がならず、相手構わず食って掛かる。見習え、と例に出されるのが花魁の明里だった。美しく優しく教養溢れる明里は、ようと同じく今は身請けされ、何不自由ない生活を送っているらしい。だが、明里は、今の旦那にだけは落籍されたくなかったとぽつりと口にした。

 灰の男
 長屋の差配 茂十は元同心。夜盗団に息子を殺された過去を持つ。逃げた犯人と瓜二つの物乞いが楡爺と呼ばれ、心町に居ついているのを知って、見張るために差配となった。楡爺はすっかり呆けて、過去の罪を確認しようがない。息子を失って十八年、楡爺への接し方も変わってきていた。…
                   (出版社の紹介文に付け足しました)

 う~ん、何だかやり切れないなぁ。哀惜溢れる作品で、あまり先行きがぱっと明るい話ではないので。…とか言ってたら時代小説はあまり読めないかもしれないんですが(苦笑;)。
 現状に甘んじて、折り合いをつけて、せめてよりよい方向に、と幸せを目指す。それがあまりにささやかだったりすると、やっぱり切ない。
 何か、西條さんには明るい話を書いてほしいなぁ、と個人的に思ってしまうんですよ。勝手な押し付けで申し訳ないんですが。