読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

鍵のない夢を見る 辻村美月著 文藝春秋 2012年

 第147回直木賞受賞作。
 短編集。

 仁志野町の泥棒
 水上律子は小学3年生から6年生までのミチルの同級生。何故か町内の学校を転々としている。律子の母親には盗癖があるという噂、でも律子本人には関係ないとずっと仲良しだった。ある日、律子が万引きしそうになっているのを見るまでは。

 石蕗南地区の放火
 石蕗地区の神社の詰め所に放火があった。その事故を調査する部門で働いている笙子は疑問を抱く。もしかして放火犯は、以前自分を執く誘って来た消防団の男ではないか。自分に会いたいが為に火を放ったのではないか。

 美弥谷団地の逃亡者
 携帯も財布も持たず、美衣は陽次と海に来た。陽次と付き合い始めた切っ掛けは出会い系、陽次の束縛はだんだん酷くなっている。

 芹葉大学の夢と殺人
 大学の恩師・坂下先生が殺された。二木未玖は、犯人は元カレの羽根木雄大ではないかと疑っている。工学部にいながらいつまでも夢を見て、医学部に入る、サッカー選手になる、と現実に添って生きようとしない雄大。そんな彼を愛しながら、先に社会人になった未玖は雄大と歩調があわなくなり、やがて破綻した。恩師の死後、行方がわからなくなっていた雄大から、未玖に電話がかかってくる。
 
 君本家の誘拐
 やっと授かった我が子がいない。ある日、ショッピングモールで、良枝は青ざめた。順調に就職し、結婚して、でもなかなかできなかった赤ちゃん。漸く授かって大切に育てていたのに。良枝は必死で探し始める。…

 回ってきた本がどうやら新品で、ちょっとテンションが上がりました。直木賞受賞で予約者が増えて、急いで買い足した分なのかしら。
 で、読んでみて、ちょっと首を傾げました。
 …個性って難しい。
 決して面白くない訳ではない。『仁志野町の泥棒』で描かれる幼い社会は、辻村さんならではのもの。『芹葉大学~』の元カレの甘えた具合、『石蕗南地区~』の主人公の見栄っ張り加減の痛々しさもそうですね。
 でも私が辻村作品に求めるのは、怒涛の展開、ドラマチックに盛り上がるクライマックス、そうだったのかぁ、というカタルシスなんだよなぁ。それがこの作品にはあまりなくて、結構嫌な話で終わってしまったような。
 もっと辻村さんらしい話があった筈なのにな、これから辻村さんの代表作はこれになってしまうんだよなぁ。面白くなかった訳ではないのですが。