読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

芸人交換日記~イエローハーツの物語~ 鈴木おさむ著 太田出版 2011年

 結成11年目を迎えた漫才コンビ イエローハーツの甲本と田中が、コンビ間の結束を強くするために日記を交換した、ほぼ一年の物語。
 ネタばれあります、すみません;

 淡々としたボケ田中と熱いツッコミをする甲本の売れない漫才コンビ、「イエローハーツ」。
 AV女優を中心に据えているような弱小プロダクションに所属、借金しまくりコンパしまくり、彼女に喰わせて貰いながらも「芸人魂」を貫く甲本と、堅実で後ろ向きな性格の田中。ネタは面白いのに何故かウケない。結成11年目を迎えてM-1グランプリにも出られなくなったことを切っ掛けに、甲本は田中に交換日記を申し入れる。
 普段面と向かって言えないようなことを指摘しあって行こう、とそこそこ真面目な理由だったにも関わらず、内容は脱線しまくり。後輩への愚痴だったり生活態度へのクレームだったり彼女への惚気だったり、気に入らないTVプロデューサーやADへの悪口だったり。どうやったら客に受けるのか売れるのか、たまに甲本が提案する内容はどうもピントがずれている。でも続けているうちに、自分達の漫才の新しい形が見えて来た。
 新しいお笑いコンテスト番組「笑軍天下一決定戦」に向けて、二人は動き始める。…

 これは本当は舞台を見に行きたかったんですが、チケット争奪戦に敗れました。時報と共に電話番号のの最後の一ケタを押す、なんてこと何年かぶりにやったんですがねぇ。…そう言えば私、ちょくちょく小劇団を見に行っていた頃でも、そこまでしなきゃチケットが取れないような人気公演にはほとんど行ったことなかったんでしたよ。
 と言う訳で原作です。
 実在の芸人さんの名前がばりばり出て来てびっくり。カンニング竹山さん、オトコ前!(笑)。
 出口の見えなかった前半、でも後半になると、漸く新しい自分達に合った漫才の形を見つけて波に乗って、快進撃を続けて、でも不安は付きまとう。きっとこのままハッピーエンドにはならないだろうな、という予感。そして糸が切れたように、終息、結末。
 「夢を諦めるのも才能」。M-1グランプリができた理由の一つもそれでしたよね、芸人をやめる切っ掛けを作るために、結成十年の縛りを入れている、と聞いたことがあります。甲本に引導を渡した社長も辛かったでしょうね。
 「世の中の人のほとんどが好きでやってる仕事じゃない」「それが仕事」。そう、だからこつこつお金が貰えてるんだよ。
 そうそう、甲本の彼女が薬剤師、という設定に妙に納得してしまいました。ありそうだよな~、薬剤師さんとか看護師さんとか。手に職持ってるから、相手に定収入がなくても「まぁいいや」で付き合っていき易いんだろうなぁ(苦笑;)。私の知ってる営業マンさんで薬剤師さんと結婚した方がいるのですが、その人曰く、仕事の愚痴を言っていた彼への「そんなに辛いなら辞めたらいいよ」「いざとなったら私が食べさせてあげるやん」という彼女の侠気あふれた台詞に、きゅんきゅん来ての結婚だったらしいので(笑)。
 田中は新たにライバルだった後輩と組んで、今は飛ぶ鳥落とす勢いの売れっぷり。でも心を占めているのは、売れない時代を共に足掻いた戦友・甲本。ああ、確かにいい話だなぁと思いつつ。
 でもこういう舞台裏見せられちゃうと、これからネタ番組で思う存分笑えなくなるかもしれないんですが(苦笑;)。