読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

海に沈んだ町 三崎亜記著/白石ちえこ写真 朝日新聞社 2011年

 短編集。

 遊園地の幽霊
 よく、遊園地の夢を見る。思い余って医者にかかると、遊園地の幽霊だと言われた。その昔この場所にあった遊園地が、その夢を見せているのだとか。自分が乗っているのはメリーゴーランドの白馬、その隣にはいつも同じ男の子。ある日この町で、その男の子の面影を持つ男性に出会う。 

 海に沈んだ町
 生まれ故郷の町が、海に沈んだ。数日後、妻と共に故郷を訪れた。遊覧船に乗って町のあった場所を巡る。その昔、捨てた筈の故郷を。その上には海の深さを予測したかのような高架橋が出来、列車が走っていた。

 団地船
 団地船は以前は夢の生活と言われていた。ケチの付き始めは「汐凪団地」が横波を受けて転覆してから。今では団地船が寄港しても誰も出迎えもしない。たまたま見かけた団地船に、私は乗り込む。幼い頃引っ越して行った少女の面影を求めて。

 四時八分
 時刻は午前四時八分。中学生の少女に案内されて、夜明け前の眠る町を横断する。この町では「おはよう」の言葉は禁句である、何故ならこの町は「眠り」に支配されているから。

 彼の影
 夏至の日、影は反乱を起こした。影は光の支配から少しずつ抜け出し始めた。「私」には見知らぬ男性の影がついてしまった。影で相手が今、何をしているのか分かってしまう生活。互いに気遣ううち、「私」には奇妙な連帯感が芽生えて来る。そして冬至の日。影の反乱が収まる日が来た。

 ペア
 私は、ペアを解消することを決意した。見知らぬ相手に、ペアを解消する理由をしたためた手紙を出す。シングルの間の寂しさ、不安定さ。それに押し潰されそうになった時、相手からの手紙が届いた。相手の暖かい励ましの言葉に満たされる私。だが一つの疑問が浮かび、私は以前、やはり相手から貰った手紙を開いてみる。

 橋
 市役所から、団地の前の橋を架け替えるという説明があった。予定よりも少ない人間しか使わないから、もっとみすぼらしい木橋に架け替えると言う。納得がいかない私に、相手は言う。「あなたの幸せが永遠に続く保証はないってことを、誰があなたに伝えるんですか?」

 巣箱
 巣箱が異常発生し始めた。一つでも見逃して、中に棲みつかれでもしたら、後はねずみ算式に「棲みつかれた」巣箱が増えて行くという。念願のマイホームを建てたばかりなのに、巣箱に棲みつかれては元も子もない。私は見つけ次第、巣箱を駆除した。

 ニュータウン
 この国では今、ニュータウンが絶滅しかかっている。ニュータウン独自の文化を保護するため、最後の一つ光陽台ニュータウンの周りには鉄条網が張り巡らされた。食糧は配給され、テレビやラジオは当時の番組を流すのみ。住人は出ることも入ることも許されない。閉ざされた町の中で、監視員は幼い少女を見かける。内部の住人同士の子供なら隠す必要はない。現代文化に染まったニュータウンに、守る価値はあるのか。…

 
 あとがきも帯もなかったので推測でしかないんですが、これ、写真から連想した物語を綴ってるんですよね? よくこんなの思いつくなぁ。
 『遊園地の幽霊』とか『彼の影』とかを読むと、こりゃ主人公は相手を運命の人だとか思っちゃうよなぁ、とか思ったり。でもそれを覆すのが『ペア』。…何だか意地悪い(苦笑;)。
 『ニュータウン』なんか人権侵害もいいところで、実際ある筈もないと思いたいんですが、妙に別のものが浮かび上がってくる感じ。…これを少数民族の保護、とか重ね合わせるとねぇ、傲慢さがほの見えてくる。その他の作品も、何か他の物を暗喩しているよう。三崎さんの他の作品でもそうでしたね。
 『四時八分』は何だか他でも似たような作品読んだような…。恒川光太郎さんの短編でこんなのありませんでしたっけ? あれは「町」ではなく「人」の方を描いていましたが。
 思いのほかすらすら読めました。面白かったなぁ、『コロヨシ!』も好きですが、こういう短編も好きです。