読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ピスタチオ 梨木香歩著 筑摩書房 2010年

 山本翠は「棚」というペンネームで、ライターの仕事をしている。アフリカ取材の話が来た頃から不思議な符合が起こり始めた。老いた愛犬に腫瘤ができ、その検査を待つ間に寄った古本屋で知人・片山海里の書いたアフリカの民話集を見つけ、彼の死を知り、さらに遺稿集を読む機会に恵まれ、アフリカの伝統医・呪医の治療原理から愛犬の病気との関連を思い、行きつけの喫茶店の女性オーナーの知人がアフリカのNGOで植林活動をして働いていることを知って、そして棚はウガンダへ旅立つ。
 観光ルポの取材をしながら、棚は片山の後を追う。彼が話を聞いた呪術医を訪ね、彼が死を予言されていたこと、彼の死後、やりかけの仕事後を継ぐ者として棚が指名されていたことを知る。
 片山の残した仕事とは、ナカトという女性の依頼だった。生き別れになった双子の妹・ババイレを捜してほしい、というもの。ババイレは小さい頃、武装ゲリラに連れ去られていた。ナカトには、ババイレが亡くなっていることは分かっていた。
 棚はナカトと共に取材を続ける。ムベンデへ、ルウェンゾリ「月の山」へ。オーナーから紹介されたNGOの千野と会い、千野は元子ども兵士の女性をナカトと引き会わせる。女性の証言から、ババイレがゲリラからの脱走を図り、そのまま行方が分からなくなっていることを知る。
 まだ自分の役目は終わっていない。そう感じながら棚はコンゴの国境へ向かい、そしていきなり、「啓示」のようなものを受ける。
 日本へ帰った棚は、生まれて初めて物語を書く。ピスタチオと呼ばれた捨て子が遺失物係の母子に育てられ、やがて鳥検番となる一生を送る話を。…

 思い出したのは中島らも著『ガダラの豚』、酒見賢一『聖母の部隊』。
 品のいい、穏やかな文章。靄がかかったような雰囲気、科学では割り切れないことを当たり前に受け止める寛容さ。結構怖かったりシビアだったりするエピソードも、柔らかに描き出す。でも歯切れが悪い訳では無くて、いくつものことが繋がって行く瞬間、特に『ピスタチオ』の題名の由来が分かるくだりは「あっ!」。
 伏線を回収するのではなく、導かれて行く。圧巻でした。
 「水」については梨木さん、前作『f植物園の巣穴』でも拘ってましたっけ。鳥についてはエッセイ集『渡りの足跡』で。いくつもの偶然が関連して物語が導かれる瞬間、ってのはこの作者自身が味わってきてるんでしょうね。