読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

チェーン・ピープル 三崎亜記著 幻冬舎 2017年

 ノンフィクション作家が様々な事象や人物を取材する連作短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 正義の味方 ――塗り替えられた「像」――
四十年も前の話。
未確認巨大生物「敵」が海から現れた。蹂躙されるがまま、何の手立てもできない我々の前に、「彼」は現れた。身長25mから30m、どこからともなく現れて、奇声を発しながらくんずほぐれつ「敵」を追い返してくれた「彼」。当初「正義の味方」として持て囃された彼は、やがて政府やマスコミから不要な物として扱われ始める。

 似叙伝 ――人の願いの境界線――
「自叙伝」ではなく、その人がそうありたかったと思う人生を描く「似叙伝」。出版している高仲は、取材に対し露悪的な態度をとる。それはその「似叙伝」の方が現実だと思い込んだ依頼者が、騒動を起こしてしまっても変わらなかった。

 チェーン・ピープル ――画一化された「個性」――
名前も年齢も住んでいる場所も全く違う。なのにその言動や身のこなし、癖には判で押したような共通点、相似性がある人々がいる。彼らは「平田昌三」的である人を目指し続けている。例え中の一人が、殺人を犯したとしても。

 ナナツコク ――記憶の地図の行方――
公園で出逢った女性は、心の中に地図を持っていたという。母親から口伝で受け継がれる、ナナツコクという架空の国の地図、だが確かに存在する。常に他国からの侵略に怯えるナナツコクから、ある日、一人の男がやって来た。男は彼女に、地図を書き換えないでほしいと願ったという。

 ぬまっチ ――裸の道化師――
沼取市非公認ゆるキャラ「ぬまっチ」と名乗る中年男、神崎。素顔を全面に晒しながらも、彼はぬまっチのファンだと名乗り、行く先々を追っかけしているという設定を貫いている。彼の言動に沼取市市長は怒り、自分の見解を述べる。筆者はそこに、ある種の連携パフォーマンスを見出してしまう。

 応援 ――「頑張れ!」の呪縛
十年前、俳優の奥村達也の人気はすさまじかった。その人気故に、CMですら起用し辛くなってしまうほどに。やがて若手俳優のマネージャーとして仕事にやりがいを見出し始めた奥村は、たまたま出たTV番組の為に再び脚光を浴びせられる羽目になる。また、同姓同名の殺人犯がいたことから、「応援(おいつめ)」という名の支援を受けることにも。…


 ああ、何だかとっても三崎さんらしい作品。
 『正義の味方』は明らかにウルトラマンがモデルでしょうね。その昔『ウルトラマン研究序説』って、ウルトラマンが出した災害だの何だのについて計算した本がありましたっけ。
 『ナナツコク』では何故だか映画『ターミネーター』を連想しました。何とも切ない話。
 どの作品も真実が捻じ曲げられ、都合のいい解釈が流布していく、そしてみんなそれを信じる。三崎さんネット関係で嫌なことにあったのかな、とちょっと邪推してしまったり。
 できれば人の善意だの何だの、いい所をメインで信じていきたいんですけど、どうも世の中はそうではないのかなぁ。いや、面白かったんですけどね。