読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

リリース 古谷田奈月著 光文社 2016年

 ネタばれになってる気がします、すみません;

 女性首相ミタ・ジョズの活躍の下、同性婚が合法化され、男女同権が実現した“オーセル国”。精子(スパーム)バンクが国営化され、人々はもう性の役割を押し付けられることはなく、子供をもつ自由を手に入れていた。ある日、国家のシンボルとも言うべき“オーセル・スパームバンク”を一人の異性愛者で愛国主義者、タキナミ・ボナが占拠した。彼は、バンクへのスパーム提供を拒み続けている名門大学の男子学生である。「今こそはっきり告発します。ミタ・ジョズはぼくをレイプした。(中略)ぼくの盗まれたスパームのIDは…」
 彼の衝撃の演説は、突如現れたもう一人の男性テロリスト、オリオノ・エンダがボナを射殺することで幕を閉じた――
 その場に居合わせた17歳のユキサダ・ビイは、ボナの持つ“言葉の力”に魅了され、新進の無思想ニュースメディア『クエスティ』の記者になり、二人のテロリストの実像を追い求める。
 オリオノ・エンダは酪農家の長男として生まれた。六人の弟妹を持つ働き者で根っからの女好き、だがガールフレンドに拒絶されたことを切っ掛けに、都会に住む実の父親と暮すことを選ぶ。
 都会のの価値観は、エンダにはとても受け入れられないものだった。タキナミ・ボナの言う、カモフラージュとして自分とペアになれば楽に過ごせる、という忠告も、理解はできても受け入れられない。スパームを騙し取られたことがトラウマになり、エンダはボナを利用したテロの計画を立てる。結果的にミタ・ジョズの懐に入り込み、“オーセル・スパームバンク”の若き責任者にまで成り上がっていた。
 エンダの目的は何なのか。取材対象として彼に近付くユキサダ・ビイに、連絡が入る。「彼を止めたい」と話す男は、タキナミ・ボナと名乗った。愛する女性、シンガーのアラフネ・ロロと一緒になるためにオリオノ・エンダの計画に乗ってしまった男だ、と。…
 男女の在り方を問う、新時代のディストピア小説。                  
                                         (前半、帯文の文章を写しました)

 う~ん、胸がざわつく。
 前作、『ジュンのための六つの小曲』でもそう思いましたが、どうも落ち着かない話を書く人だなぁ。
 始まってすぐに書かれているユキサダ・ビイの母親たちの価値観「男と生活しながら心身の健康を望むのは不可能に近いしそのために努力するのは遺憾の無駄である、という結論に達した」はまぁ印象的でした。
 いや、一緒に住まなきゃ駄目なのか、通い婚とかでもいいんじゃないか、じゃあこういうパターンの場合は、ああいうパターンの時は、と読みながら色々考えてしまいました。まぁ、そのうちの一パターンが、ユキサダ・ビイの境遇というか最初のオチになるのですが。男か女かそれだけでは判断がつかない登場人物の名前も、多分意図を持ってつけられたものでしょうし。
 「男同士の恋模様やセックスを鑑賞する趣味は、今や婦女子たるもの欠かせない素養の一つですわ、みたいな雰囲気になってる」という文章には、半ば現実化してるよなぁ、と苦笑するしかない。
 それぞれの価値観を尊重し合う、干渉し過ぎない居心地のいい距離感と言うのはそんなにも難しいのかなぁ。エンダのその後が気になるラストでした。