読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集 澤村伊智著 宝島社 2023年

 掌編集。

 名所
 「うちのマンションは自殺の名所や」と語る少女。住人ではない人が次々にB棟13階から14階の踊り場から飛び降りて行くのだとか。

 みぞ
 サッカーボールを取りに入った少年が行方不明になった、との噂がある側溝。今日、罰ゲームでその側溝に入らされた少年がいる。行方不明にはならなかったが…。

 せんせいあのね
 河原で黒い人形を見つけた大介。「こいつで遊ぼうぜ」と誘われた大介は…。

 君島くん
 学校を休んでいる「君島くん」にプリントを届けることになった昌輝。ただそれだけの筈なのに、訳の分からない決め事を守らねばならない。前任者の宮本くんは、何故かいきなり引っ越してしまったそうだ。

 保護者各位
 登下校中、公園入口にいる不審な女性に絶対に声を掛けないこと、と記されたプリント。校長が変わって、彼はその女性を追求しようと試みたらしい。

 血
 充は父の実家の集まりが苦手だった。さんざん飲み食いした後、男連中は近所の川に向かう。

 かみさまとにんげん
 夏休み、この町の小学生はみんなでかみさまを作る。子供だけで太い縄を編み、木の支柱に巻き付けたもの、出来上がったら山の麓まで置いてくる。近年、町の人口が少なくなって、かみさまも貧弱になってきた。

 ねぼすけオットセイQ町店301号室のノート
 とあるラブホテルに置かれた、ノートの記載。

 さきのばし
 バイトの後輩 肥後ちゃんはとにかくトロくて、何事も先送りにしてしまう。やらなきゃと思いながらも、行動に移せない。レストランのメニューも、先輩の身だしなみの指摘も、ベランダのクーラーボックスの処理も。

 深夜長距離バス
 かつて乗った深夜バスでの出来事。夜中なのに、あちこちでお喋りがする。不審に思い、周囲を見渡してみると…。

 内見
 内見で紹介された部屋は、どれも事故物件ばかり。漸く気に入った部屋を前に、案内人は「お母様もご不満はないですか?」と訊いた。

 満員電車
 仕事帰りの満員電車で、女性が倒れた。いつも同じ電車に乗っていて顔なじみにだけはなっている人たちと、連携して救助する。そして、後日。また同じ女性が、泡を吹いて倒れた。

 空白
 両親と弟との旅行中、ホテルで借りた映画のビデオテープに映っていた、包帯だらけの女性。自分の名を呼んでいたのに、他の人は誰もそんなものは映っていなかった、と言う。30年後、出席した中学の同窓会で、姉のことを尋ねられた。

 はしのした
 一歳半の息子を保育園から引き取ってきた帰り。不審な老婆に後をつけられ、父親は焦って家に帰ってきた。その夜、保育園から電話が掛かって来る。「いつまで経ってもお迎えにいらっしゃらないので」、背後では息子の声が…。

 青黒き死の仮面
 トラブル続きの結婚式、これは新婦のかつての恋人、車ごと海に飛び込んだ彼の呪いではないか? 果たして、披露宴会場の隅に、男が一人現れた。

 通夜の帰り
 通夜の帰り、かつての同僚と話しながら帰った。十年ぶりの再会に、あの頃の力関係をそのまま持ち込む阿部。今の白川は言い返せる。

 喫茶店の窓から
 喫茶店の窓越しに妻と見たのは、少年が彼の自転車を蹴られる所だった。いじめにあう彼を痛ましく思う二人、だがその後見た光景は二人食い違うようで…。

 無題
 五日間、行方不明だった娘が帰ってきた。ずぶ濡れで、だが乱暴されたような形跡はない。以前から不穏な噂があった三角山に行っていたとのこと、妻が付き添って部屋に休みに行った後、警察から電話がかかってきた。「娘さんが三角山で見つかりました」。…

 夢殺
 いじめを切っ掛けに、人を殺す夢を見た。幾度かそれが現実に繰り返され、少女は眠るのを拒否するようになった。彼女にユーチューバーがインタビューを依頼してくる。周囲の人々は取材を断った。

 冷たい時間
 十二年振りに集まった鶯中学三年五組の仲間。タケル、ヤノッチ、しおりんとくみたん。全てがうまく行っているとポジティブに話すタケル、デザイン会社に勤めるヤノッチ、さばさばとカッコイイしおりん、おとなし気に見ているくみたん。楽しかった中学時代を回想し、それぞれの家に戻る。それぞれの現実に。

 残された日記
 小学校の時、同じ学年にいた裏田。サッカー部のエースで、いわゆる一軍にいた少年。サッカー進学し、その後伸び悩んで落ちこぼれて行く彼に対し、自分は進学校から名門大学へ、東京で就職したある日、小学生の裏田を見かける。…

 掌編集。
 怪談的なものもあり、そこから一歩二歩進んだものもあり、幽霊だったり呪いだったり、土着の民話的なものだったりスプラッタだったり、SF的だったり復讐譚だったり、現実的に怖いものもあり。ホラーのバリエーションをこれでもか、と集めた感じ。いじめの様子や人を見下げる人物の描写の不快感が絶妙です(苦笑;)。
 「匂わせ」で終わるのもあって、こちらの推察力を要求されるなぁ、と思った作品も。『せんせいあのね』での母親の質問「どろぼうなんてしてないよね」については、未だに分からないままです。警察は別の件で訪ねて来た、ってことなのかしら?? 『保護者各位』も、ミイラ取りがミイラに、って解釈でいいのかな。でもどれも決定的な自信はなく、自分の洞察力の衰えを痛感しましたよ。
 一番イヤだった話は『さきのばし』かなぁ。現実にもありそうで。
 作者のホラー好きがひしひしと感じられる作品集でした。