読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

空とセイとぼくと 久保寺健彦著 幻冬舎 2008年

 犬と過ごした10年間。
 ネタばれになってるかな、すみません;
 
 物心が着いた時には、「ぼく」零は上野公園でお父さんと寝起きしていた。銅像の横でブルーシートを重ねただけの家、ゴミ箱をあさる生活、たまに配給にありつける。でもぼくは毎日楽しかった。二年後、隣に来たおじいさんが仔犬を連れていた。セイと呼ばれるその犬を、散歩に連れて行くのはぼくだった。大好きなおとうさんが凍死して施設に入れられて、でもそこから逃げ出して公園に戻ってからは、セイはぼくの食べ物探しのパートナーにもなった。やがて飼い主のおじいさんも死んで、ぼくはセイと公園を逃げ出す。
 七年間、十四歳になるまで、ぼくはセイと旅を続けた。旅の終点、新宿中央公園で、ぼくの生い立ちを「かっこいい」と評するリョウと出会う。チンピラくずれのリョウは足を洗ってホストになると言い、なし崩しにぼくも同じ場所で働き始める。未成年ということもあって始めはボーイだったのに、やがてホストとして客を取ることになる。
 セイのフィラリアの治療費を稼ぐため、ぼくは無邪気に働いた。読み書きはここで覚え、本やメールに興味を持ち、ブレイクダンスに夢中になった。犬なみの集中力で客の様子に注意を払って稼ぎ始めた矢先、リョウは借金をぼくに押しつけて行方不明になってしまった。
 ぼくを救ってくれたのは客の一人、リカさんだった。その場で取り立て屋に札束をつきつけ、ペットの代わりにぼくとセイを飼ってくれると言う。そのままリカさんのマンションへなだれ込み、ダンスづけの毎日が始まった。
 公園で知り合ったダンサーと組んで、あちこちの賞レースに参加する。だが、思いつくまま行動するぼくに協調性はなく、だんだん関係はぎくしゃくしてくる。それでもぼくの並はずれた運動神経は話題になり、雑誌の取材も舞い込んで来る。それは「リカを探していた」と言う男を呼び込み、ぼくは拉致されかけた上、車から突き落とされた。
 大腿骨骨折。手術を受けてリハビリして、ぼくはリカさんの境遇を知る。本名は優子さん、彼女に異常に執着する実の兄に追われている。入院中に知り合ったおばあさんに住む家を紹介してもらい、退院後、ぼくは優子さんとセイとでまた暮らすことになった。ぼくの入院中に、セイはすっかり年老いていた。
 ダンスの大会には出たいけれど、ぼくが目立てば優子さんの居場所が知れてしまう。組んでくれる相手もいない。優子さんはぼくに、もう逃げることはやめた、大会にはセイと出たらいい、と言い出す。…

 久しぶりの久保寺さん。この人は私には不思議な作家さんで、読み始めたらするする読めるし面白いんだけど、どこか何だか波長があわない。他館からわざわざ取り寄せてまで読むほどではないか、と思っていたのですが、何だかこの間出た本があちこちで絶賛されていて、「久保寺健彦がこんなに早く一皮むけるとは!」みたいな評まで見た日には、「これを読む前に、一皮むける前のも読まにゃあかんやろなぁ」と思わされてしまいました。
 相変わらずするすると調子よく読めました。そしてやっぱり、面白いのにどこか波長があわない(苦笑;)。最後にどうしても「…で?」って訊きたくなっちゃうんだよなぁ、どうしてかなぁ。で、男の子の性の目覚めは、この作家さんにはもう書かなきゃいけない必須事項なのね(笑)。犬を出して来てあのラスト、ってのはちょっと卑怯じゃないかなぁ。うるうる来るに決まってるじゃん。
 どうしてかなぁ、ちゃんと読み易くて面白いのになぁ。その理由がはっきりするまで、追いかけなきゃいけないかもなぁ。話題の新作に期待、です。