読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

シアター! 有川浩著 アスキー・メディアワークス 2009年

 ネタばれになってるかな、すみません;

 三歳下の弟・巧は人見知りが激しい苛められっ子だった。兄・司との「ごっこ遊び」が唯一の自己表現の場だったが、その才能は児童劇団のワークショップで見事に花開く。巧は脚本の世界に足を踏み入れ、学生演劇を経て「売れない小劇団シアター・フラッグの脚本家兼演出家」の道を突っ走る。
 苛められっ子だったトラウマも引きずって、巧の身上は「みんな仲良く」、劇団員の誰にも気を遣う優しい主宰者。だが新星プロ声優・羽田千歳が入団を希望したことから、巧の目標が変わる。目指すは脱・仲良し劇団。素人が趣味で打つ興行ではなく、これで食っていける劇団になりたい。そのためにはまず、今までの「全員参加」の脚本を見直す。
 おかげで約半数の劇団員が反感を示し、辞めていった。おまけのように明らかになった負債は総額約300万円、とりあえず司に泣きついた巧は、代わりに「2年間で劇団の収益から借金を返せ」と条件を突き付けられる。司は巧の芝居熱を、あまり快く思っていなかった。
 無駄な出費を抑えるという名目で、司は何時の間にやらいわゆる「製作」に当たるポジションを勤めることになる。脚本を早く上げるよう巧をせっつき、経費がかかる設定は却下し、観客動員を見込める羽田千歳の知名度は最大限利用、ブログやラジオで宣伝する。稽古場はあちこちの公共施設の転々使用を決め、パンフレットにスポンサーをつけて印刷代を浮かす、チケットの販売状況を把握する。
 絞るだけではなく、司は必要経費、特に宣伝広告は惜しまなかった。そのため千歳が心ない雑誌インタビュアーから受けた仕打ちには、司自身は無自覚にカウンセラーの役目まで果たす。
 芝居の稽古は進む。嫉妬や憧れや片思いや、様々な思惑を呑みこんで、いよいよ春川巧作・演出、羽田千歳初舞台『掃きだめトレジャー』が開幕する。勿論アクシデントはてんこ盛り、素直に千秋楽は迎えられなかった。…

 面白かったぁ。
 この間読んだ『フリーター、家を買う』もそうでしたが、目標をクリアするって設定の話、有川さん上手いなぁ。読んでて気持ちがいい。司さん、そりゃ惚れちゃうよ(笑)。
 台詞喋ってると動きが悪くなる、ってのは以前声優の山寺宏一さんも三谷幸喜さんに指摘されたそうで。まぁそんな、中学校の演劇部で言われるようなことを!と微笑ましくも納得した覚えがあります。
 学生時代が小劇団ブームにかすっていたので、私も以前はお芝居を見に行ってました。何てったって扇町ミュージアムスクエアですよ、懐かしい。二時間座るとお尻が痛くなるんですよね(笑)。今回のこの話を読んで、何だか色々連想しました。演劇集団キャラメルボックスリリパットアーミー、プロジェクト・ナビ、21世紀FOX。判り易いメジャー路線宣言をした劇団新感線。でも一番好きなのは離風霊船。…関西来なくなっちゃったなぁ。
 初心者が入り易いメジャー路線が報われない、ってのは昨今のライトノベルに対する有川さんの憤懣も入ってるのかな、とか思いつつ(笑)。うん、でも軽いだけではつまんなくなっちゃうんだよね、消費者も贅沢になっていくから。ただ私自身はこの頃は突き抜けたのか、「判り易いっていいよね」と思うようになりました。…ココロザシの低さを自覚した瞬間です。でもそれは手を抜くってのとは違うんですよね。
 時間と金は反比例、ってのはそうそう、と頷きました。同人誌作る時でも、間際になればなるほど代金は高くなるし印刷は汚くなるし…ってあわあわ;  妙な所で共感できましたよ(苦笑;)。
 少し気になったのが、「台本を売る」行為。…実際売ってるの見たこともあるんですが、いいのかな、とちょっと思う。そんな入り易い舞台なら、学生さんとか勝手に文化祭とかでやっちゃわないかな。それは商業演劇ではないから構わないのかしら。
 アニメの録音で、年配の声優が台本でカットされていた原作の台詞をねじ込んだ、というエピソードは実話なんだろうか。昨今のアニメ事情で、ちゃんと原作までチェックしてくれるベテラン声優さんがいるのならそれは本当に嬉しいんですが。
 司お兄ちゃん、次回プレスリリースを撒く時は、メール便の方が安いからね。
 何か久しぶりに、「小劇団」と呼ばれる舞台を見たくなりました。