読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

高原王記 仁木英之著 幻冬舎 2010年

 ええと、このお話を気に入ってらっしゃる方は、この感想文を読まない方がいいかと思います;
 ネタばれになってるかな、すみません;

 大河ブラマが横切る広大なセイトゥオ高原。数々の急峻が聳えるこの地では、妖魔と人間との戦いが続いていた。「英雄」と呼ばれる戦士、過酷な修行の末「中有の脱皮」に成功した聖者、数少ない選ばれた者だけが峰の精霊、川の精霊と契約を結ぶ権利を得る。契りを結んだ人と精霊は、お互い唯一無二の存在となる。ジュンガ峰の精霊ジュンガは英雄タンガと契約を結んだ。
 タンガは清廉潔白豪放磊落、心の濁った所のない気持ちのよい青年だった。だが精霊ナンガと契約を結んでいる光の聖者ゴンバ・ルドに魂の一部を抜き取られ、すっかり人が変わってしまう。物事を斜めに捉え、人への思いやりを忘れて酒に溺れるタンガは、ジュンガを振り返りもしない。ジュンガは再び山に帰り、百月が経った。
 ジュンガを再び下界に連れ帰ったのはタンガではなかった。三リン国の偉大なる大総官王ダンジェ・ザフの長男にして川の精霊キチューの契約者シェンルン。妖魔が蔓延るセイトゥオ高原の行く末を憂いたダンジェ・ザフが得た神託により、新たな英雄の父親に選ばれた男。この男、人はいいが覇気がない。妻になる竜人の娘・ファムは元々タンガに想いを寄せていたこともあって、シェンルンに嫁いだものの彼に心を開くことはなかった。
 ただ一度の逢瀬でファムは英雄をその身に宿し、わずか数日で男の子ジュエルを出産する。一日で一歳年を取る様は、官僚たちに恐れを抱かせるに十分だった。特に宰相チャオトンは、弟ダンジェ・ザフばかりが英雄視される現状に元々不満を抱いていたその上のジュエルの誕生に、ジュエルを追い出す算段を立てる。二十日で成人したジュエルをファムともども妖魔退治に遠征させる。
 行く先々で武勲を立てるジュエルの評判は、熱狂的に上がって行く。とうとうダンジェ・ザフは国から彼を追い出すため、新しい国を作る許可をジュエルに与える。
 噂を聞きつけたゴンバ・ルドは、英雄ジュエルの魂も手に入れようと母子の前に現れ、さらに魂を成熟させるため、ファムを攫って姿をくらます。変わってジュエルに従ったのは、まるで見向きもされなかったシェンルン。商人を味方に引き入れ、わずか数カ月で国を作り上げるジュエルの手腕に、シェンルンは舌を巻く。
 我が娘をないがしろにされた竜人族からすれば、血筋を引くジュエルに味方するのは当然のこと。三リン国は干上がり、ジュエル国は水の恵みを受けて豊かに満ち満ちる。だが折角作ったこの国も捨て、ジュエルは再び旅に出る。目指す敵はゴンバ・ルド、ファムを取り戻すつもりだった。ジュエルの妻になるのだと言い張る娘ミトもジュエルについていくと言い、その護衛を言い付かっているタンガも同行、タンガの心を取り戻したいジュンガも、ファムと寄りを戻したいシェンルンも行動を共にする。一向の前に、ジュエルの魂を手に入れようとゴンバ・ルドが現れた。…

 今回のこの話で、以前から仁木さんの書く話に抱いていた違和感がはっきりしました。
 私、この人の「時」の扱い方が気に入らないんだわ。
 数年で周囲から尊敬される医師になってしまった『僕僕先生』の主人公。すぐ迎えに来る仙人。重ねることでしか得られない経験値に、どうも敬意が払われていない気がする。
 数日で月満ちて産まれる赤ん坊、20日で成人する英雄、少年のまま成長しない精霊、わずか数カ月で出来上がる国。…建物はともかく、田や畑まで?  植物の生長速度、ハンパなくねぇ??  普通に年を取る一般民の姿も描くべきだろうに、状況を言葉で説明するだけで具体例はなく、こちらに短い生の儚さも長い生の悲哀も伝わってこない。その状況説明にしても、順番間違ってたりしてましたよね。「一晩肌を重ねただけで」ってジュエル生誕にまつわるエピソードが出て来たのはかなり後だったし、ジュエルの理解者・叔父のシャザも一カ月で一歳年を取る異形の体質だった、ってのも二度目の登場の時の記述。それ今さら言うの、初登場時の人物説明で断わっとくべきことだろう、と思わず突っ込みいれてしまいました。何故ジュエルに心を添わせたのか、って結構重要な理由になってるじゃないですか、後から書くと言い訳みたいに見えてしまう。何かね、学生演劇にありがちな感じ。学生演劇って役者がみんな似たような年だから、最初に「この人は何歳でどういう境遇で」ってのを説明しなきゃいけないのに、それをメイクと演技で何とかなるだろうと高をくくってしまって、観客からすると認識ができない、みたいな。シャザにしろチャオトンにしろ、結局最後は中途半端なままだし。
 アニメにならないかな、これ。決して誉めてるんじゃなくて、この話は雛型なんですよ。設定で出来てる。腕のいい脚本家が、膨らませて行く前の元ネタ段階のような気がして仕方がない。それにしてもオリジナリティに少々難ありかもなぁ。自分とその唯一無二のパートナー、ってのは『十二国記』とか『黄金の羅針盤』とか、連想する話が色々浮かんだし。
 例えば、仁木さんはファンタジーノベル大賞出身ですが、この作品では賞はとれないと思う。作者も編集さんも、もうちょっと練りましょうよ;