読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 辻村深月著 講談社 2009年

 ネタばれになってます、すみません;

 『みずほちゃん、あの約束、覚えてる? 来年の三月までなら大丈夫だよ。』
 4月29日、幼馴染の望月チエミが逃亡した。郷里・山梨の自宅で母親を刺した後、行方不明になった。
 親友でフリーライターの神宮寺みずほは結婚後東京で暮らしており、ここしばらくチエミと交流はなかった。事件後半年以上経って、それでもまだチエミは見つからない。チエミは今どこにいるのか。最後に来たメールの意味を汲みとれないまま、みずほはチエミの知己を訪ね歩く。
 チエミの小学校から高校にかけての元同級生、手芸部のクラブメイトで今は一児の母、古橋由起子。
 合コン仲間のギャル系美少女、妻ある男性との不倫に行き詰っている素直で優しい北原果歩。
 チエミの小学校時代の恩師で、事件直後、唯一チエミと会った人物・添田紀美子。
 当時、合コン幹事を積極的に務めていた飯島政美。
 チエミの元恋人で、結局別の女と結婚した柿島大地。
 チエミの職場の後輩、建築士の資格を持つ及川亜理紗。
 同年代の女性誰もがチエミとその母の関係を異常だと言った。まるでドラマのように仲がいい親子、何だか気味が悪いほど、あんな母娘関係はありえない。優しく愛らしいチエミの、でも視野の狭さは母親から来ているのではないか。
 合間合間に入る「赤ちゃんポスト」の説明、その設置場所である高岡育愛病院の産科医師・瀬尾新一と院長・設楽かなえへの取材。みずほ自身の流産の経験と母親へのわだかまり、かえって義母との方がうまくいく気まずさ。やがてみずほの胸に一つの推測が浮かび上がる。あのメールの意味は、もしかして…。
 急遽「赤ちゃんポスト」の閉鎖が決まる。みずほは添田の元へ走る。
 そして、チエミの半年が語られる。…

 この人、文章上手くなったなぁ。と上から目線、前半しみじみ思いました。盛り上がるまで読み続けるのが辛い作品もあったのに、今回はぐんぐん読めたもんなぁ。
 いや~、泣いた~。そして後半は一気でした。
 チエミがもしかして、と言うのは大地との会話辺りで薄々思ったのですが、まだひとひねりありましたね。
 あんな男に固執してしまうチエミに感情移入することは難しい面もありましたが、結局チエミは親子関係さえあれば、と思ったんだろうか。自分と子供とで、自分と母親のような関係を築いていければそれで大丈夫、と。それをするにしても収入面とかでの見方が甘いのはチエミならではかなぁ。
 長女は母親の呪縛に囚われている、と言う説を聞いたことがあります。確かに娘は母親の価値観を、そのままなぞる所がある。でも、今ほど親子間で価値観のずれが大きい時代はないでしょう。母親をある程度客観的に見られるようになったのは、いつからだったろう。
 ただ、母親にも勿論母親がいた訳で、そこまで踏み込んで書くとなると、よしながふみさんの『愛すべき娘たち』や梨木香歩さんの初期の一連の作品になるんでしょうね。
 とか言いながら、私は母と仲いいんですけど。私は「尊敬する人は」と訊かれれば「母」と何のてらいも躊躇いもなく答えるし、母に「娘がそばにいる生活ってのはいいもんだよ」と言って貰えると素直に嬉しい。ただこんな私でも「このままでいいのか」「離れるのは今しかないのでは」と考えた時期もあって、でも大学も就職も地元で済ませてしまったので結局甘えたまま今に至る訳ですが(苦笑;)、他の女性陣が語るチエミの異常さ、ってのはこれがちらっとでも浮かんだことがない、ってことなのかなぁと思ったり。自分の母親との反りが合わなさを、チエミに当たってるのならそれは違うと思うけど。
 理不尽なしつけを受けていたみずほにとって、温かなチエミの母親は憧れだった。自分のお母さんを好いてくれたみずほを、チエミは嫌いになれる筈ない。
 はじめての喧嘩があんなことになって、それでも母は娘を愛しているのだと分かるラスト、意味不明に思えた題名との繋がりはさすが。そしてもう一つのどんでん返し。
 …お見事、面白かったです。男性読者がどう読んだのか気になるなぁ。