フランス文学者・杉本秀太郎による序詞(詩、俳句、短歌)に秘められた謎と、希代の新鋭画家による10のイメージに誘われた、摩訶不思議な10の作品世界。(紹介文より) …なんだそうで。
恋はみずいろ
小さい頃から、私には不思議な声が聞こえました。初めはオグネ(東北の平野にある屋敷林)の中に棲んでいると思っていましたが、それはどこからも聞こえるようになりました。でもその分、私はその声を鬱陶しく思うようになったのです。東京に出て、いつの間にか私にはその声が全く聞こえなくなっているのに気が付きました。でも急に、あの人の声が蘇ったのです。
唐草模様
唐草模様の意匠には、開けてはならぬ、触れてはならぬという禁忌の意味があるのではないだろうか。
登山が趣味だった父とよく山を歩いた。母親は少年が幼い頃失踪していた。山奥で見た奇妙な緑色の柱は、あれは本当は何だったのだろう。
Y路路の事件
Y路路で起きた奇妙な出来事。二度の衝撃音の後、ある人は雨は降らなかったと言い、ある人は土砂振りだったと言う。猫がいきなり消えたと言う人がいれば、馬の嘶きが聞こえたと言う人もいる。衝撃音の時刻さえ一致しない。そして、祖父が失くした下駄が落ちていた。
約束の地
一人の男がまどろんでいる。浜辺だったり暑い部屋のベッドだったり、小舟の中だったり。夢を見ているのか現実なのか。
酒肆ローレライ
その店は、いつもそこにあるわけではないらしい。ふらりと入ったものの、どうやら以前にも来たことがあるらしい。その店はライン川の上を流れ、カウンターの中の女が歌う。
窯変・田久保順子
本来、田久保順子は幼いころから類まれな才能を持っていた。その才能は美しい言葉と音楽を聴くことで目覚める筈だった。そしていずれ、人類を救う筈だった。
夜を遡る
今夜あたりグレメが上がってくるから、川に行ってはいけない。でも今日もタカシは川へ遊びに行く。いつもの通り、公民館の見張り台にはペドロさんがいるし、ガラガラドンは土手の草地を耕している。妹のアカネもきたがっていたが、稽古中だからついては来れない。
翳りゆく部屋
由紀子の友達は自分の愚痴を言うだけいって、こちらの話はまるで聞かない。そう言えば母親もそうだった。ベランダの家庭菜園は豊かに実って行く。
コンパートメントにて
列車のコンパートメントに男と女が乗っている。女は冬の野原を越えて来た人物を思い出し、男はボールペンをどこで失くしたか思い出していた。
Interchange
世界はあわいを目指す。深夜、ノートパソコンの光に照らされた部屋で、女は文章を綴ろうとしているが一行も進まない。…
ブックデザインは祖父江さん。…でも何だかまともな作りです(←こらこら;)。
確かに『夢十夜』だわ。夢か現実か、不思議な話。中には訳分からなくて消化不良な話も(苦笑;)。でも『Y路路~』は凄く好き。いかにも恩田さんで嬉しくなってしまう。『唐草模様』は海外小説の翻訳物のよう。『夜を遡る』は長編で読みたい話ですね。恒川光太郎さんを明るくしたような作品になるんじゃないかな。他の作品も、いずれ長編に姿を変えるものがあるかもしれません。