シリーズ3冊目。連作短編集。
これぞ怪談文芸の最高峰!
怖ろしくも美しい。哀しくも愛おしい。
建物で起こる怪異を解くため、営繕屋は死者に思いを巡らせ、家屋に宿る気持ちを鮮やかに掬いあげる。
我が家は安心……だから危うい。 (帯文より)
待ち伏せの岩
崖の上に建つ洋館、今はフレンチレストランになっているそこの窓に女性の影が映るという。彼女に手招きされた従弟が嵐の夜にボートを漕ぎ出して死んだ、彼女を出せ、と言われてオーナーシェフの青野は戸惑うばかり。何故なら家族にも従業員にもそんな女性はいないから。だが青野の娘 多実もその窓に女性の姿を見ていた。但し、部屋の中から外に向けて。
火焔
姑は誰に対しても悪意をまき散らす人だった。実の娘 久美が、介護した義妹の順子に感謝して、財産を相続放棄するほどに。夫も先に亡くしていたので、たった一人で古い家に住むことになった順子。所が、未だ残る姑の影が順子を追い詰める。薬の時間に壁を激しく叩き、仕事先に電話がかかって来る。階段から落ちた順子を心配して、久美は営繕屋を依頼した。
歪む家
弥生が作るドールハウスは、作るうちに情景が歪んでいく。幸せな家庭を作っている筈なのに、何故か不幸を映し出す。その度、お寺で焚き上げしてもらう弥生。唯一本格的に組んだドールハウスの中も日々歪んでいく。鼠が死に、抱き人形がバラバラにされ、赤ん坊が殺された。弥生が手を加えた覚えはないのに、腕を見込まれて初めて人の為に作ろうとしていたのに。
誰が袖
典利の実家は幽霊屋敷だった。父も祖父も何故か改修を嫌がったので家はぼろぼろ、父の死をきっかけに潰してしまった。だが、郊外に新築したこの家でも、あの家で匂ったお香のような匂いが漂ってくることがある。実家から持って来た薬箪笥からだろうか、何か紫吹いた跡がある薬箪笥。後添いだった母から、父も祖父も最初の妻を初産で子供もろとも亡くしていることを聞いたのは、妻の和花のお腹が大きくなってからだった。
骸の浜
真琴の家の庭は、近くの海岸線が模してある。海での死者は、自分の亡骸の場所を教えに真琴の家を訪れる。かつては払われた敬意も今では忌むものとして遠巻きにされ、真琴たちが家を建て直ししようとしても近隣の人から嫌がらせをされて阻まれた。台風の日に雨戸を飛ばされ、真琴は怯える。折しも小さな女の子が川に流される事故が起きた、朝にもその女の子が来てしまう――。
茨姫
跡取りのいない歯科医を継ぐため、郷里に戻った響子。17年前に姉は自死し、母も二年前に亡くなった今、響子はようやく実家の遺品整理を始める。母親は姉ばかりを可愛がったので、仲はよくなかった。母の遺品は姉にまつわるものばかり、一番の難題は庭、びっしりとツルバラが覆う小屋で、姉は首を吊った。…
容赦ない建築用語(?)建具用語(??)に四苦八苦つつ(パーゴラって以前にも出てきたっけ、オランジェリーって何、ドーマー窓ってどんなの、…って調べればいいんですけど・苦笑;)。和物の方がまだ分かるなぁ、田舎があったせいかしら。
優しいなぁ。今回、性格的にかなり問題がある死者も出てくるんですが、その人への対処すら優しい。いや、基本的には「適当にあしらう」「やり過ごす」がベースなんですけど、無碍にしている訳ではない。そういえば、生前関わりのあった人が残ってる、ってのは今回初ではなかったっけ。今までは自分に直接関係ないものが障る、というパターンだったような。
「居心地のいい家」っていいですね、だからこそ生まれる余裕。死者にとっても。庭師の堂原さんの能力も発揮されましたね。
じわじわと積み重なっていく展開は短篇でも健在、さっさと尾端さん出てこいや、とじりじりしながら読みました(笑)。