読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

壁抜け男の謎 有栖川有栖著 角川書店 2008年

 短編集。

 ガラスの檻の殺人
 友人の女の子がストーカー被害で困っている。警察も本気で動いてくれない。探偵の「俺」が待ち伏せして問い質すと逆ギレして殴られた。数分間気絶している間に、ストーカー男が刺殺されてしまう。現場は十字路で、それぞれほろ酔いのサラリーマン、屋台のラーメン屋、タバコ屋の主人と俺たちが道を塞いでいる。どうやって犯人は現場から逃げ出したのか、それともこの中にいるのか。それなら凶器すら見つからないのは何故なのか。

 壁抜け男の謎
 高台に建つ松原利雄の屋敷に、泥棒が入って高価な絵を盗まれた。結局絵は庭にある迷路の中から見つかったが、犯人の姿は消えていた。入口も出口も塞いでいたのに、犯人はどうやって逃げたのか。

 下り「あさかぜ」
 岡山駅中央コンコースのトイレで死体が見つかった。容疑者はその時間、下り「あさかぜ」に乗っていたと言う。容疑者が見せる時刻表を見ても、「あさかぜ」に乗っていたなら犯行時間に岡山駅には間に合わない。

 キンダイチ先生の推理
 近所に住む推理作家・錦田一先生の元に通う中学三年生・金田耕一。この間自宅マンションで殺された歌手・佐久良恭一の生きている姿を、最後に見たのは「僕」らしい。佐久良は電話ボックスに入って、何度も電話をかけていた。

 彼方にて
 大規模なテロルの報復として、某国にミサイルを撃ち込んだ大国。そのニュースに接して、青年は考える。――あの小説の作者が存命だったら、どう思うだろう。小さな動物園で出会った男は、青年に話しかけてくる。

 ミタテサツジン
 ピークを過ぎた元人気スターと、売れない芸人から転身したマネージャー。とある孤島で二人が出会ったのは、村の実力者の三人の娘。いずれも美しい娘たちは、『獄門島』になぞらえたかのように、美しい振袖姿で殺されていた。

 天国と地獄
 天国にも地獄にも食堂があると言う。どちらも長さが九十センチ以上もある箸で亡者たちは食事をするのに、天国では満ち足りて地獄では泣き叫ぶしかない。

 ざっくらばん
 近頃の若者は言葉の使い方がなっとらん、と憤る浦川所長。だかその彼自身も言葉遣いを間違えている。社内の新製品の機密漏洩が噂される中、開発チームの一人・山形に送られて来た脅迫状には、同じ間違いが記述されていた。

 屈辱のかたち
 文芸評論家の芥子野は、かつては辛辣な辛口批評家だった。この頃は丸くなって来た、特に凪典彦の近作は二作とも絶賛したのだが…。

 猛虎館の惨劇
 近所でも評判の阪神タイガースファン・綿鍋大河が殺された。首がちょん切られ、現場からなくなっている。一昔前の推理小説でもあるまいし、DNA鑑定もできるこの時代、死体のすり替えなんぞもってのほか。何のために死体の首は持ち去られたのか。

 Cの妄想
 メンタルクリニックを訪れたある男は妄想に駆られている。自分は本当にこの世に存在しているのか、誰かに作られただけではないのか。
 新聞に掲載された一作。

 迷宮書房
 二人の紳士が山の中、理想の本屋に巡り合った。どんな物語もそろいます、との謳い文句につられ入店してみると、中は果てしなく広く、またどこかで見覚えのある要求が…。

 怪物画趣味
 画家・犬伏犬人の描く怪物画を集めている古河貴寿。近頃何件も起こっている猟奇殺人の犯人は彼ではないかと思ったが、どうにも崩れないアリバイがある。

 ジージーとの日々
 子守ロボットに子供の世話をさせる時代。我が家では「ジージー」と名付けたロボットに、幼い息子の面倒を見させている。身を呈して子供を庇ってくれるジージーを、しかし子供自身は鬱陶しく感じ始めているようだ。

 震度四の秘密
 結婚前、今までの女性関係を清算するために名古屋へ来た男。恋人には仕事で大阪に出張、と嘘を吐いている。恋人への電話中、TVのテロップに「関西で震度四」とのテロップが流れ…。

 恋人
 旧友の結婚式に招待され、久し振りに信州を訪れた岩淵。それを口実に、翌日、大学時代の夏休みを過ごした友人の別荘を訪ねる。今は亡き友人と、隣家の姉妹との懐かしい思い出。幼い妹・芽久美は乳歯が生え換わる時期だった。…

 短い作品ばかりでした。
 何か、意外。有栖川さん、こんなに作風の違ったものも書くんだ~(←失礼;)。
 『怪物画趣味』は本当、らしくない感じ。田中芳樹さんや、いっそ綾辻行人さんみたい(笑)。これがシリーズ物にならない所が有栖川さんなんでしょうね。『ジージーとの日々』はアシモフを連想しました。でも一番驚いたのは『恋人』だった気が…(笑)。
 頼み方にもよるんでしょうが、頼まれたお題に誠実に応えようとする、有栖川さんサービス精神旺盛だなぁ。この辺りは大阪出身だからでしょうか。いわゆる京都派の皆さんとの違う一面を見たような気がします。…いや、それは私の気のせいか(笑)。