読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

闇の喇叭 有栖川有栖著 理論社 2010年

 もう一つの日本を舞台にした推理小説

 平世21年の日本。
 第二次世界大戦で京都にもう一つ原爆を落とされ、北海道がソ連に占領されていた世界で。
 日本から独立した旧北海道、現<日ノ本共和国>のスパイも多数送り込まれ、一色即発の雰囲気が漂う日本では政府の締め付けが厳しくなっている。警察以外の捜査が禁じられ、探偵行為が違法になった。探偵小説も禁じられている。
 両親ともが探偵だった空閑純は高校二年生。母親が行方不明になり、母親の実家に父親と身を潜めている。有吉景以子と小嶋由之は同じ合唱部の友達。どんどん住人が東京に出ていくような過疎化の進む田舎町で、ある日男の全裸死体が見つかった。
 徴兵制度が敷かれている日本国では、全男性の指紋が登録されている。身元不明の死体などありえない筈なのに、身元が特定できない。すわ北のスパイかと警察の捜査が行き詰る中、もう一人、崖下に転落して死んでいる男が見つかった。数日前、見慣れない女がこの町をうろついていると騒いでいた、近所でも評判の変わり者の伊敷紀彦。この男に有吉景以子の母親が借金をしていたことから、景以子の母親が容疑者として疑われる。
 何故最初の男の身元は割れないのか、何故全裸だったのか、二人の死に関係はあるのか。一番の容疑者には伊敷の死亡時刻にアリバイがある。このトリックを崩せるのではないか、と純は父親に相談する。…

 何故だか読み損ねていました。…何で読んでなかったんだ??
 異色だなぁ、有栖川さんの作品でこの設定は。日本が南北に分断された世界。こんなにメッセージ色が強いような作品って、今まであったかしら。
 で、この世界は読んでてきつかったです。モデルにした国が見え隠れして、でその国がそんな状況なのは、米ソが直接の原因ではあるんだけど、引いては日本のせいだから、と言うかそう思う人も当たり前にいるだろうから、どうにも切なくて。シベリア抑留のエピソードとか、どこまで史実なんだろう。人数や年数と言った具体的な数字も現実と呼応してるんだろうか。
 あまりにも窮屈になったこのもう一つの日本で起きる殺人事件。推理小説そのものは楽しめました。こんな面倒なトリックは実際やる人はいないだろうけど、それは様式美ですものね(笑)。
 音信不通になってしまった純は今どこで過ごしているのか、景以子や由之との再会は叶うのか。純の母親たちが関わっていた事件も読者には分からないまま。純の元にはその情報は届いているのかしら。引っ張りどころは満載でしたね。この世界の結着は見当がつかないけど。