読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

鼓笛隊の襲来 三崎亜記著 光文社 2008年

 三崎亜記短編集。

鼓笛隊の襲来
 赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。楽団員で構成された迎撃部隊はあえなく壊滅、鼓笛隊に飲み込まれた。防音室に籠もる者、街から出る者、住人が様々避難していく中で、園子の家には老人ホームいた祖母がやってくる。鼓笛隊は恐れるものではない、と孫に静かに語る祖母は、低くゆっくりと子守唄を歌い始める。

彼女の痕跡展
 その朝、目覚めと同時に私に訪れたのは、圧倒的な喪失感だった。
 私には恋人がいた筈なのに、「恋人」が誰か思い出せない。とにかく今まで通りの生活を続ける中、街中の小さなギャラリーで開かれていた「彼女の痕跡展」に目が止まる。そこに展示されていた品――音楽ディスク、文庫本、洋服、雑貨、日用品――はかつて自分が所有していたものだった。この展示の主催者が私の恋人だったのだろうか。

覆面社員
 職場の後輩が覆面をして出社して来た。課長との不倫に悩んでいた彼女は、「労働者の権利」として覆面を被り、名前も改めて別人としてふるまい始めた。また課長と付き合い、今度はその想いを成就させて結婚退職する。覆面を被ることで人は変わろうとしている。

象さんすべり台のある街
 郊外の丘陵地に造成されたこの街に公園ができた。しかも本物の象さんすべり台も設置されている。娘の瑠奈は本物の象に尻込みしている様子、だが象は住宅街で起こった火事を消して老女を救ったことから、一躍街の人気者になる。ようやく騒動も収まったある日、象が姿を消す。すべり台は新たに設置されたが、象さんすべり台が戻ってくることはなかった。

突起型選択装置(ボタン)
 彼女の背中には突起があった。押したらどうなるのか、誰にも分からない。彼女と暮らすようになって暫くすると、二人組の男が「僕」に接近、「特定突起型選択装置暫定占有申請書」にサインしろ、と言う。

「欠陥」住宅
 大学以来の友人・高橋の携帯電話が不通になった。自宅に行ってみると、彼の奥さん・加奈子が迎えてくれる。変わる階段の段数、子供などいないのに子供部屋が現れ、窓からの風景も毎日変わる。そして消えた四つ目の部屋に、高橋は今もいるらしい。

遠距離・恋愛
 上空一千メートルの浮遊特区に勤める雄二とは遠距離恋愛。三か月に一回会えるか会えないか、今回も半年ぶりに会えたというのに、システム不調だとかで雄二は呼び出されてしまった。

校庭
 娘の父親参観に行った「私」は、校庭に一軒家が建っているのを見る。娘の教室には何故か仲間外れになっている少女が一人、しかし娘をはじめ教室内の誰も気が付いていない。娘の学校は「私」の母校でもある。よくよく思い出してみると、自分も彼女に見覚えがある気がする。

同じ夜空を見上げて
 前の恋人・聡史は五年前、消息不明になった。私の家に来る途中、乗っていた列車ごと消えてしまった。一年に一度現れる列車とすれ違うため、乗客の遺族は上り列車に乗り込む。…

 三崎さんの作品は、私やっぱり短編の方が好きかも。相変わらず眉村卓さんを連想しました。不可思議な世界に説明なくいきなり放り込まれる感じ。ユーモラスなような、どこか寂しいような雰囲気。
 アイデアメインの作品が多いんですが、それこそ短編SFの醍醐味みたいなものですよね。日常をちょっとずらした世界、いいなぁ。