読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

窓のあちら側 新井素子著 出版芸術社 2007年

 “いろ”をテーマにした、新井素子自薦短編集。
 ネタばれあります、すみません;

グリーン・レクイエム
 緑の少ない小さな公園で出会う髪の長い女性・三沢明日香。幼い頃迷い込んだ裏山の中、洋館で出会った緑の髪の少女ととてもよく似ている。植物の研究をしている大学助手・嶋村信彦は彼女に恋をする。文字通り緑の黒髪で光合成のできる彼女は、研究対象として信彦の恩師・松崎教授に追われ、逃避行へ。母の遺志を受け、「帰りたい」と願う明日香。彼女が帰りたい場所とはどこなのか。

ネプチューン
 2253年。すっかり汚れきって茶色にうねる海の中、山岸洋介、河村正行、水沢由布子は一人の少女を助ける。裸で言葉も喋れない彼女。海を浄化する研究をしている洋介は、彼女・ネプチューンを人魚に重ね、次第に惹かれて行く。洋介への想いが断ち切れない由布子の心境は複雑。だが、ネプチューン自身は由布子の今の恋人・正行に懐いていく。ネプチューンはどこから来たのか、その秘密には物理学の笹原教授が関わっているらしい。口封じに命を狙われる三人。ネプチューンは元の海へ、正行の宇宙への思いを抱いて帰って行く。

『雨の降る星 遠い夢』
 『星へ行く船』シリーズ二作目。
 火星へ家出してきた森村あゆみ。せっかく恋人・山崎太一郎とクリスマスを過ごすはずだったのに、太一郎は急な出張で木星へ。腹立ち紛れにマンションの隣の住人・沢礼子を訪ねると、彼女も婚約者にイヴの約束をすっぽかされた所だとか。礼子は恋人・和田明雄が惑星ヒガに自生するきりん草に夢中で、その為に自分とも別れようとしている、と言う。調べてみると、ヒガのきりん草は、惑星開発に関係する重要人物の家に所有されていた。

ショートショート三篇
『一月 雪』:地面がおひさまに憧れて、遊びに来てくれるように自分の上に積もらせた雪。でもおひさまは雪を大切にしようと訪問できない。
『八月 蝉』:神様に、地上で一週間しか生きられない自分たちの境遇を何とかしてくれ、と頼む蝉。でも神様は何もしない。蝉の子の望みを知っているから。
『十二月 夜』:めだちたがりやの夜の神様。せめて存在感だけでも際立たせている。

『眠い、ねむうい由紀子』
 受験に失敗した由紀子。裏口入学させようとした父親に反発してみたものの、成績はなかなか上がらない。眠気だけが募っていく中、やがて何故か成績が上がって来る。

『影絵の街にて』
 久子はある日、若作りの老人から不思議な腕時計を貰う。その時計は時間を操ることが出来た。自分だけの時間を何度も繰り返す久子。やがて明らかに年を取って来た久子は、今度は時間を省き始める。時間に振り回されることに、久子はやがて嫌気が刺す。

『大きなくすのきの下で』
 出世の見込みのない夫、とろくて鈍くさい息子。苛々を募らせていた恭子に、絵の中の楠が声を掛ける。「取引をしましょう」「覚えていないだけで、あなたは何度も私と取引しているんですよ」。小さい頃の苛めがおさまったのも、高校に合格したのも、夫と結婚できたのも、息子が授かったのさえ、楠と取引した為だった。但し、そのために失った未来も…。


 新作ではなく、作品集でした。
 懐かしいものも含まれてましたね、『グリーン・レクイエム』はある時期まで、私の中の新井素子ベスト作品でした。短編だったのか、もっと長い話だと思ってた(しみじみ)。
 改めて読み返して思ったこと。作中の登場人物の喫煙率、高いなぁ。今ではちょっと考えられないほどですね(笑)。
 あと、「子供を持つ」「次代に繋ぐ」ことがモチーフの作品が思いのほか多かった。『チグリスとユーフラテス』を読んだ時、「これは誰より作者にキツい作品なんでは…」と思ったのですが、そして後書きでもそのことに自分で触れてらっしゃいましたが、元々この価値観を持った人が…てのは、辛かっただろうなぁ。それをまた、作品にしてしまう業の深さも凄い。漫画『ピアニッシモでささやいて』の、シンガーソングライターの登場人物が、大好きだった父親の死を曲にしようとしている自分に気が付いてぞっとする、という場面を思い出しました。
 以前の自分では気が付かなかっただろうなぁ。