読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

無花果の実のなるころに 西條奈加著 東京創元社 2011年

 西條奈加さんの新作。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 父の転勤に同行せず、神楽坂で履物店を営む祖母と暮らすことを決めた中学二年生の望。若い頃は芸者だったという祖母は、包丁も持てない面倒くさがりで、気が強くて、決して世話好きには見えない。でも「お蔦さん、お蔦さん」と誰からも頼られるような、不思議な吸引力を持っている。そんなお蔦さん目当てに人が集まって来るから望も何かと忙しくて…。
 お蔦さんや学校のみんなに振り回されつつも少しずつ成長していく望の、あたたかくて少しだけ波乱のある爽やかな日常を描いた、連作短編集。
                                    (表紙折り返しの紹介文より)


 罪かぶりの夜
 望がちょっといいな、と思っていた女の子に、好きな男の子がいると分かった切ない夜。幼なじみの洋平が警察に捕まった。二か月ほど前から出没している蹴とばし魔は、自転車に乗ったまま通行人を後ろから蹴とばすという犯行を繰り返していて、この間は被害者のおばあさんが腰の骨を折る重傷を負っている。その犯人が洋平で、本人も罪を認めているのだとか。洋平は誰かを庇っているに違いない。望と洋平がこの間交わした会話の内容を聞いて、お蔦さんは犯人に目星をつける。

 蝉の赤
 学園祭、望の美術部の先輩・足尾さんの展示品が傷つけられた。大きく穴のあいたその作品は、先日文部科学大臣賞をとった傑作。足尾先輩本人は、ネットで話題になっている放浪画家・乾蝉丸の模倣だと謙遜していたが、周囲の人間には許せることではない。警察沙汰にしろと息巻く中、お蔦さんは現場を見て、犯人を推察する。さらにその裏には、もう一つの真相があった。

 無花果の実のなるころに
 近所で振り込め詐欺が相次いでいる。被害者はお蔦さんの麻雀仲間ばかり、どうやらこの間後ろで卓を囲んでいた若者が、お蔦さん達の個人情報に聴き耳を立てて詐欺に利用したらしい。イチジクのタルトを持って被害者のおばあさんのお見舞いに行った数日後、望の家にも詐欺電話が掛かって来た。

 酸っぱい遺産
 立脇工業の社長が他界した。お蔦さんと昔馴染みだった社長は、会社の株の33%をお蔦さんに譲ると遺言書に書いたらしい。社長の長男はお蔦さんに、権利を放棄するようねじ込んで来る。おっとりした先代とかなり気性の違う長男に少々辟易するお蔦さん。下には後妻さんとの間の弟・妹がいるらしい。先代はお蔦さんに何を望んでいたのか。

 果てしのない嘘
 以前店の前で佇んでいた少女・石井楓から電話があった。母親が怪我をして倒れ、父親が警察に連れていかれたと言う。お蔦さんと病院に駆け付けて判ったことは、楓が自分の親戚だということ。楓の父親は曾祖父ちゃんの末息子だったらしい。画家を目指してフランスへ放浪し、そこで楓の母親と知り合って楓が授かったのだとか。両親が別れた原因にはある男の影があって、そのいざこざが現在まで引き摺られていることをお蔦さんは察知する。真実を知りたいという望に「きかない方がいい」と真実を知る覚悟を促す。

 シナガワ戦争
 サッカー部のエース彰彦の家に、洋平と遊びに行った夜。クラスメイトの小坂翠から電話がかかって来る。彰彦に恨みを持つ誰かが翠を彰彦の彼女だと勘違いし、拉致した上で彰彦を呼び出す電話だった。ひょんなことから代わりに電話に出た望は、犯人が彰彦の兄・行也と関係ある人物だと推測する。

 何か、普通に面白かった。
 『大草原の小さな家』や『赤毛のアン』、『若草物語』の昔から、美味しそうな食べ物には弱いよなぁ、と思いつつ。普段和装のお蔦さんの着ているものにもちょっと心惹かれたり。
 何だろう、ちょっと意地悪い言い方すると、気風のいいお祖母さんだの料理上手な男の子だの美味しそうな料理だの、人気のある要素を色々リサーチして加工して手堅く練り上げてまとめました、みたいな。ああでもこう言う言い方すると誤解されるな、勿論好きな物が沢山入ってるんだから、面白いんですよ。
 シリーズ化されるんだろうなぁ。読んじゃうなぁ(笑)。