読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

風が強く吹いている 三浦しをん著 新潮社 2006年

 ネタばれと言うか、かなり細かく粗筋書いてます、すみません;

 寛政大学の文学部4年生・清瀬灰二(ハイジ)はある春の夜、万引きをして逃げている新入生・蔵原走(かける)に出会う。その美しい走りに魅了されたハイジは走をスカウト、すっからかんで寝る所もないと言う走を家賃三万円のおんぼろ木造アパート・竹青荘に連れて来る。
 アパートの他の住人は8人。
 走と同じ一年生の双子・城太郎(ジョータ)と次郎(ジョージ)。
 二浪した上現在理工学部五年目のヘビースモーカー・平田彰宏ことニコチャン先輩。
 法学部4年にしてもう司法試験にも受かっている理論家・岩倉雪彦(通称ユキ)。
 理工学部二年、留学生の黒人ムサ・カマラ。
 社会学部4年、クイズ番組を録画してまで見る坂口洋平(キング)。
 商学部三年、山奥の田舎から出てきた紳士的な杉山高志(神童)。
 文学部二年、王子様のように整った顔立ちの漫画マニア柏崎茜(王子)。
 ハイジは10人集まった住人を前に、厳かに宣言する。箱根駅伝を走ろう、と。
 高校まで陸上部にいた走には無謀な提案にしか思えない。だがハイジは本気で、脅したりすかしたり宥めたり、粘り強く他の9人を説得して行く。各人にあった練習方法を考え、食事に気を配り合宿まで計画、事務仕事もこなしてそれぞれのタイムを上げて行く。
 各大会に参加するうち、走やハイジの過去が明らかになる。居丈高で支配的な監督に不満を抱き、暴力事件を起こして陸上をやめてしまった走、その遺恨から走に対抗意識を燃やす東体大の榊。ハイジは父親のスパルタ教育に疑問を抱き、右足の故障を悪化させていた。
 予選会で何とか出場権を獲得し、いよいよ当日。大家のお爺さんや地元商店街有志の声援を糧に、10人だけの挑戦が始まった。
 往路、第一区は王子。初心者の王子に幸運なことに、スローペースでレースは展開。最下位ではあったが、そんなにタイム差がない状況で、ムサに襷を渡す。
 花の二区はムサ。雰囲気に呑まれ初めこそペースを乱したが、やがて自分を取り戻し、13位で襷を渡す。
 三区はジョータ。走ることを通して明らかになってきた弟・ジョージとの違いを思い、これからの訣別を覚悟する。
 四区、11位で襷を受け取ったのはジョージ。この土壇場で、何かと世話を焼いてくれた八百屋の娘・勝田葉菜子の自分への好意に気付き、上の空で、でも十位で走り切る。
 五区は神童。風邪を引いて高熱が出た状態での山登り。棄権してもいい、との声に頷かず、ふらふらになりながら、18位でゴールする。トップとの差は11分53秒、復路は繰り上げ一斉スタート。
 翌日、復路の六区、雪が積もった中での下り坂。ユキは冷静に飛ばしていく。下り坂ならではのスピードで走の見ている世界を体感し、再婚した母と義父、幼い妹へのわだかまりを吹っ切る。
 七区、ニコチャン先輩。総合16位で襷を受け取る。走ることに不向きな自分の体つきにコンプレックスを抱き、でも走ることが愛しいと言う自分の気持ちを認める。
 八区、キング。順位は総合15位。プライドが高く人付き合いの苦手なキングは、走ることで得た仲間との一体感を、夢のように思い出す。
 九区、走は総合16位で襷を受け取った。かけがえのないものをくれたハイジに襷を渡すため、区間新記録を出す、「陸上の神に愛された」走りをする。総合12位でハイジの元に辿り着く。
 最終区、右脚の古傷を感じながら、ハイジは走る。二度と走れなくなるだろう痛みを抱えて。…

 しまった、読む順番を間違えた。『一瞬の風になれ』より前に読むべきだった。
 あちらで日々練習を積んで三年かかって予選を突破して、それでも「今年はもっと出られると思ったのに」と口惜しがっていたのを読んだ後では、さくさく本選出場するこの展開には違和感を持ってしまいました。どうも素直に感動できない。だって、みんな体調万全だったらものすごくいい成績残した訳でしょ、陸上を一年も経験してないチームなのに。
 走る孤独を感じていた走としては仕方ないかもしれないけど、高校時代、自分のせいで大会に出場できなかったクラブメイトへの罪悪感がないのも気になる。ハイジはどうもできすぎだし、その他の人物の書き込みも今いち足りないとも感じました。
 なのにねぇ。
 クライマックス、走る一人ひとりをクローズアップして描き出す手法なんか、読み始めた最初から「やるだろうな」と思っていた構成なんですが、でもまんまと泣いてしまった。三浦さんが以前エッセイで書いていた「高めあい成長しあえる対等な」関係、てのは私もどうも弱いようです。ええ、『ロミオの青い空』、大好きでしたとも!(笑)。
 装丁も結構いい感じ。でも神童とユキには長袖シャツを着せて欲しかったわ、せっかくちゃんと本文読み込んでる雰囲気の表紙絵なのに、画竜点睛を欠いたわね(笑)。