読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

なかよし小鳩組 荻原浩著 集英社 1998年

 『オロロ畑でつかまえて』続編。
 ネタばれと言うか、粗筋ほとんど書いてます、すみません;

 倒産寸前の弱小広告製作会社・ユニバーサル広告社で働く杉山。やっときた大きな仕事CI(企業イメージ統合戦略)のクライアントは、指定暴力団小鳩組だった。何とか断ろうとするが、事務所にはスキンヘッドのいかにもなヤクザ男・河田が見張り役として詰めているし、お調子者の社長・石井はインテリヤクザの鷺沢に乗せられて、年間契約を結んでしまった。
 杉山のプライベートも安定しない。離婚した妻・幸子との間の7歳の娘・早苗は新しい父親に馴染まず、杉山のアパートに家出してくる。嬉しくない訳がない杉山だが、幸子が改めて早苗を預かってほしい、と依頼して来た理由を聞いて冷水を浴びせかけられた。幸子の乳癌手術のためだと言う。
 家族の縁が薄かった幸子がかつて心配したのは、杉山と早苗の健康だけだった。酒浸り、ヘビースモーカー、不規則な生活を送る自分はそれを煩わしく思うだけだった。幸子を喪うかもしれないという段階になって初めて、杉山は自分を顧みる。高校陸上部に所属していた頃を思い出し、毎朝ジョギングに汗を流すようになる。
 小鳩組のシンボルマークを作るだけで手を引くつもりだったのが、鷺沢はキャンペーンイベントやTVCMまで要求してくる。イベントはともかく、暴力団のCMなど流せる訳がない。代わりに、と杉山はシンボルマークがデザインされたTシャツを着ての市民マラソンへの参加を提案する。例え最初の5分でもトップで走る招待選手に並走すれば、十分CM効果はあるだろう。その役目は自分と河田の舎弟・西脇勝也が果たせばいい。
 杉山はともかく、勝也は道を踏み外すまで、かなり有力な長距離ランナーだった。一緒に練習するうち奇妙な一体感が生まれてくるが、レース前日、勝也は傷害事件を起こしてしまう。
 当日は幸子の手術日でもあった。成功した、との幸子の再婚相手からの電話にほっとしたのも束の間、早苗とはもう会わないでほしいと言われる。これが早苗に見せてやれる最後の父親の姿かもしれない。杉山は意地を見せて、必死に招待選手に食らいつく。…

 ヤクザ屋さんとのやりとりは、何となく小林信彦著『唐獅子株式会社』を思い出しました。一般常識とはズレた感覚が怖いってったら怖いんだけど可笑しい(笑)。
 前作は何となくオロロ村の人たちが中心っぽかった覚えがあるんですが、今回は杉山がメインでしたね。漸く父親の自覚が出て来て、でも取り返しがつかない。多分ハッピーエンドなんだけど切ない。サッカー狂いの早苗ちゃんの造形が、7歳にしては幼いような大人び過ぎているような、ちょっと違和感ありましたが面白かったです。
 大の大人でも変われる、成長できる。代償は大きくなるし、ちょっと手遅れかもしれないけれど。