読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

秋の牢獄 恒川光太郎著 角川書店 2007年

 恒川光太郎三作目、短編三本収録。

『秋の牢獄』
 同じ日、11月7日の水曜日を繰り返しすごしている大学二年生の藍。何故こんなサイクルに巻き込まれてしまったのか、いつどうやったら出られるのかまるで判らない。毎日違う行動をしても、必ず朝はいつものアパートで目を覚ます。孤独に苛まれながら25回目の11月7日を過ごしている藍に、一人の青年が声を掛けてくる。彼は隆一と名乗り、自分も「リプレイヤー」で、他に何人も仲間がいる、と藍と引き合わせてくれる。会って話をして食事をして旅行をして、しかし徐々に減っていく仲間たち。「北風伯爵」と呼んでいる白い異形のものがどこかに連れて行く、と言う。

『神家没落』
 春の夜、「ぼく」は藁葺き屋根の不思議な家に迷い込んでしまった。翁の面を被った不思議な住人は「ぼく」を待っていたと言い、家を彼に譲って消えて行く。ぼくは家から出られなくなっていた。
 それは旅する家だった。一定周期で姿を消し、別の場所に現れる。誰か身代わりがいないと、家から開放されないらしい。ぼくは喫茶店の看板を出し、家の庭に成っていた木の果実をメニューに、自分の後継者を探す。ようやく来た陽気な銀縁眼鏡の男に家を引き渡し逃げ出すが、やがて、日本の各地で行方不明者が出、別の場所で遺体が発見されるという事件が起き始める。

『幻は夜に成長する』
 幼い頃、リオは祖母と森の中で暮らしていた。祖母には幻を見せる能力があり、彼女もその力を持っていると言う。ある日リオが町の子供に誘われて遊んでいるうちに、森の家は焼失、祖母も行方不明になってしまう。そこで初めて、リオは自分が誘拐されて祖母と名乗る女と暮らしていたこと、実は本当の家族がいることを知る。元の両親との生活を取り戻すリオ。だが、幻術の力は磨いていた。やがて、ある新興宗教団体の男がリオに接近してくる。それは祖母の元にいた頃、何度か会ったことのある男だった。…

 嬉しい。この作家さん、益々好みになって来てる。
 同じ日を繰り返す、って話は結構色々あると思うんですが、私がこれまで読んだ話はどれも前向きで、何とかこの状況を打破しようとする話ばかりでした。こう言う諦めと言うか滅びと言うかを静かに描くこともできるんだなぁ。
 『神家没落』の後半、藁葺きの家での生活を肯定的に捕えた辺りなんか、「あ、羨ましいかも」とか思ってしまった(笑)。
 この本、装丁いいですね。表紙が秋の夕暮れ、捲ったら同じ景色の昼間の様子。文庫になったらこれは無理だろうな、どうなるのかな。