読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ロスト・トレイン 中村弦著 新潮社 2009年

 中村弦、デビュー二作目。
 ネタばれしてます、出たばかりの本ですみません;

 奥多摩湖小河内線廃線跡のハイキングコースで、「ぼく」牧村は平間要一郎さんと出会った。親子以上に歳の離れた平間さんは鉄道マニアで、定年退職後悠々自適の生活を送っているとか。暮らしている場所が近かったこともあって、ぼくと平間さんの交流はその後も続いて行く。
 穏やかで押しつけがましい所のない平間さんと、吉祥寺駅前のパブレストラン〈ぷらっとほーむ〉で他愛ないお喋りに興じる日々。連絡手段だった吉祥寺駅伝言板が無くなって、スムーズに待ち合わせができなくなって、忙しい年末進行が続いて、でも漸く仕事に一段落ついた頃、ぼくは平間さんが行方不明になったことを知る。最後に会ったのは11月第二土曜日、既に酒が入っていた平間さんは上機嫌で、「まぼろし廃線跡がある」「それを見つけてたどればある奇跡がおきる」との鉄道マニアの間でも知られていないような噂話をぼくにした。
 平間さんはその廃線跡を見つけたのではないか。母親のお腹の中にいた頃父親を亡くし、以来母親の再婚相手や弟との生活の中、「ここではないどこか」「本当の自分の居場所」を探して鉄道に乗っていた平間さんは、奇跡を見に廃線跡をたどっているのではないか。ぼくは平間さんの鉄道仲間・倉本菜月さんと共に、平間さんを探し始める。
 手掛かりは平間さんの蔵書『日本私鉄史辞典』に挟んであった「キリコノモリ」と書かれたメモ、「まぼろし廃線跡」の言葉、平間さんに年賀状を出している鉄道仲間。図書館に通い、ネット検索し、一人ひとりを訪ね、ぼくと倉本さんは漸く、その廃線跡が戦時中一時的に「霧古の森」を貫いて設置された、草笛鉱山に続く路線を指していることに気付く。どうやらそこは、何人もの人々が行方不明になった、いわくつきの路線だったらしい。
 ぼくと倉本さんは二人、森の中のその廃線跡をたどる。廃墟になっている駅舎、土砂崩れの跡。そんな中、まるで線路を守るように鉄橋に絡まる蔦。携帯は当然圏外、時計は狂い、ラジオも聞こえない。幻が見え、不思議な夢を見る。熊に襲われ荷物を失い、それでも二人は終点の草笛駅にたどりつく。倉本さんはすっかり「むこう側の世界」に魅せられていた。…
 
 熊対策は鈴と笛じゃなかったっけ。…とか言うのは置いといて。
 この作家さん、やっぱり好みだ。
 前作『天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語』ほどではありませんが、二作目としては十分じゃないかな、と思う。…と何故か上から目線(笑)。
 前半、「そういえば…」と後からエピソードが付け足されるのが多少気になりましたが、でもじゃあそのエピソードをどこで入れたらいいのか思いつかないし。リズムとしてはこれがいいんですよね~。
 柔らかな文章、全体的に靄がかかったような幻想的な優しさは相変わらず。不思議と日常が混在する世界。多少不安を残しつつ終わるラストもいい。行ってしまった菜月さんをずっと気に掛ける、ってのでもよかったかな、とも思うけど。
 鉄道マニアらしい蘊蓄も入ってるのに押しつけがましくないし。
 読み易い、っていいなぁ。