読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

悲嘆の門 上下 宮部みゆき著 毎日新聞社 2015年

 『英雄の書』と同じ世界の作品。
 ネタばれあります、すみません;

 三島孝太郎は都内の大学の教育学部に通う大学一年生。両親と反抗期真っ只中の中学二年生の妹・一美と暮らしている。大学生活に意義を見出せずにいたが、高校時代のクラブのOB・真岐誠吾に声をかけられ、〈サイバー・パトロール〉を業務にしている企業 株式会社クマーでバイトをすることに。
 巷では「指ビル」と呼ばれる殺人魔が話題になっている。これまでに四体、遺体の足指なりどこか一か所を切り取る殺人鬼、その情報をネットの海から拾い上げるのも作業の一つ。その他、学校問題をメインで検索しているバイト仲間・森永に、隣家の中学一年生の少女・美香のいじめ問題について相談に乗ってもらったり。やがて、その森永が行方不明になってしまう。森永は近隣のホームレスが何人か姿を消している状況を不審に思い、一人調査していた。
 連絡がつかなくなる前に森永が送ってきた子供の絵の写真から、孝太郎は真菜という幼児と知り合う。先月、貧困の中母親を亡くしてしまった少女。彼女が描いた絵は、アパートの部屋から見える廃ビルの屋上に飾られたガーゴイルの石像だった。同じころ、その石像が動く、という噂を耳にして、定年退職した元刑事・都築茂典もそのビルを調査していた。そこで二人は、有翼の怪物、異世界の美しい巨人ガラに会う。
 森永は自分から望んで、ガラの持つ武器・大鎌に取り込まれたらしい。ガラは別〈領域〉に囚われた息子を救うため、自分の武器を鍛えていると言う。集めているのは人間の渇望、もう関わるなというガラ本人や都築、見知らぬ不思議な少女・友理子の忠告も振り切って、孝太郎はもう一度ガラを呼び出す。クマーの社長であり、孝太郎の憧れの人だった山科鮎子が、「指ビル」の5番目の被害者になったから。孝太郎はガラに、連続殺人鬼の渇望をやるから力を貸せ、と言い放つ。
 山科鮎子の事件の犯人はすぐに見つかった。ガラの「言葉を見る」「物語を読む」能力を持ってすれば簡単に見つかった。続けて第四の事件、保育園に子供を迎えに行く途中で殺された薬剤師の犯人も、バイト仲間を脅すことまでして突き止めた。「指ビル」は一人ではなかった。単独の犯罪が、次々に模倣されたものだった。
 ほかの事件もそれぞれに解決しかけていることが判って、孝太郎は能力をガラに返すことを決意する。矢先、隣家の幼馴染の少女・美香と連絡がつかなくなった。いじめ問題は解決していなかった。
 やはりガラの力を借りて訪れた現場で、孝太郎は美香の変わり果てた姿を見る。そして、孝太郎は「正義の力」を振るうことになる。「悪を狩る」悦びを知ってしまう。
 数々の渇望を吸収して完成した大鎌を持って、ガラは〈悲嘆の門〉へと旅立ち、孝太郎も後に従う。ガラの戦いを見届けるために。…


 上巻に3日、下巻に3日、きっちりかかりました。私は大概後半の方が読書スピードが上がるので、何とも珍しいな、と思いつつ。
 前作『英雄の書』よりも読み易かったです。多分、あちらが異世界メインだったのに対し、こちらは現実世界が中心だったからじゃないかな。個人的な感想ですが、宮部さん、異世界の状況説明あまりお上手じゃない気がするから。
 何だかTVドラマみたいな展開だな、というのが途中までの印象。2~3話かけて、それぞれの事件の真相が判り、ガラが大鎌を振るって行く。『デスノート』も実写ドラマになるくらいだから、ガラの造形も何とかなるだろうし。でも最後で「あ、これは無理かも」とは思いましたが。ウルトラマンみたいになっちゃうかもしれない(笑)。
 私は宮部さんが書く「いい子」が好きで。だから今回、その「いい子」がどんどん荒んでいくありさまを見るのは辛かったです。せっかくガラから離れる決心をした途端に襲い掛かる悲劇、「フラグ立ってるんじゃないの、これ?」と不安に苛まれながら読んでいったら案の定、でその上ガラの裏切り。…いや、裏切りではないんだけど。孝太郎が帰ってくる時には、心の中で「真菜ちゃんの光を思い出せ!」と念じてましたね(笑)。
 ラスト、現実世界の時間が戻ってたのはよかったんですが、そしたらガラの大鎌も完成しなかったんではないかしら、とちょっと疑問に思いつつ。森永くんはあのまま門番に吸収されてしまったんでしょうか。それも何だかなぁ。森永くんも「騙された!」と思ってないかなぁ。
 それにしても、ガラは何で千草さんを脅すようなことをしたんだろう。