読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

旅のラゴス 筒井康隆著 新潮文庫 1994年

 初出は1986年。
 ネタばれになるかも、すみません;

 ラゴスは旅をしている。北から南へ。
 目的地はポロの盆地、そこには失われた文明の残り香、ご先祖が残していった大量の書物が秘蔵されているという。
 途中、遊牧民族の集団転移のパイロット役を務めたり、壁抜け芸人に出会ったり。ある町は石畳に規則正しくたまごが並べられ、巨大な宇宙船の残骸のある街も。理想の自分を似顔絵として描いてくれる男に出会った時は、シュミロッカ平原で出会った少女デーデに似顔絵を贈ることを思いつく。
 逗留先の町で奴隷狩りの襲撃を受け、銀鉱で働かされること7年。劣悪な環境の中、彼の知識が彼の地位を上げて行き、奇妙な信頼関係が築き上げられる。
 書庫に辿り着いたラゴスは読書に耽溺する。写真入りの本から始まって実用書、日記、史書から伝記へ、政治と経済、社会学、さらに小説へ。医学、科学に手こずっていたら、旅の途中に出会った少年タッシオが協力してくれた。彼は聞いたもの全てを暗記する能力に恵まれていたから。その間、ラゴスの助言により村は発展し、ラゴスは王として祭り上げられる存在になっていた。
 そして15年。ラゴスは故郷に帰る決断をする。2年をかけて戻ったシュミロッカでデーデの行方を聞き、喪失感を味わった後、いよいよ故郷キテロ市へ。時代遅れの奴隷商たちに捕まるというアクシデントに見舞われつつ、ラゴスは帰郷。持ち帰った情報を人々に伝授する日々、だがそれは揉め事の火種にもなりかねない行為だった。
 慎重に時期や人を見計らって知識や技術の伝達を重ね、さらに15年。タッシオが訪ねて来る。医学、科学、法理論の知識を持って。4年後、全ての知識の継承を終えたと思ったラゴスは、最後の旅に出る。北へ、とある放浪画家の絵にあった、デーデによく似た女性を探して。…

  御大筒井康隆作品を読む時には、何だか身構えてしまいます。「行くぞ!!」と気合い入れる感じ。ともすればハードルとも取れるかも。
 書架にあったので手に取った一冊。今回も「えいやっ!」と頁を捲ったのですが。
 …むっちゃ読み易い。え、筒井先生、いいんですか、こんなに分かり易くて??
 ロードムービーものの基本中の基本のような感じ。お手本として全て詰まっている。本当、上手い。設定の説明の巧みさなんて、いや本当、見習うべき人沢山いるよね!? 三崎亜紀さん、恒川光太郎さん、時雨沢恵一さん、すぐに系譜に連なるだろう作家さんが思い当たりました。
 感情を抑えた、理知的で冷静な淡々とした文章。でもそれで情感が伝わらない訳ではなく、哀しみや寂寥が迫ってくる。女性にもて過ぎではないかしら、とは思いましたが、それでも心の中に、生涯追い続ける想い人を置くことでチャラにして、ずるいなぁ(苦笑)。
 知識の獲得を史書から始める、ってのは本当、それ…!って思いましたね。音楽を音楽史から学び始める理解し易さ、ってのは葉加瀬太郎さんが講師を務めるTV番組で思い知りましたっけ。
 面白かったです。さすが御大、読んでなくてすみませんでした。