読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

神々の宴 オーリエラントの魔導師たち 乾石智子著 創元推理文庫 2023年

 連作短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 セリアス
 イザベリウスとロルリアの夫妻は魔道師。村人の求めに応じて地下水脈の流れを整えた所、総督の地方代理人ボツモスに目を着けられた。悪い噂を流され、じわじわと村の雰囲気が悪くなっていく。襲撃があると連絡を受けて二人は避難したが追いつかれそうになり、魔力を使うことになる。〈焼きつくすもの(セリアス)〉の星の助力をロルリアに引き出して貰い、修復の魔道師イザベリウスは、かつて自分たちが受けた虐殺の記憶を追手に追体験させた。

 運命女神(リトン)の指
 コンスル帝国歴 902年、首都にて。
 紅の髪のユーディットは糸の紡ぎ手。元商家の奥方で、夫の奴隷の扱いに我慢ができず、結局自分への態度もそれとさして変わらないと気づいて離婚を申し出た。
 灰色の髪のエディナは奴隷の両親の元に産まれた。優秀な織工の母に仕込まれ一流の織り手となった。奴隷である人々の運命を疑問に思い、運命女神(リトン)の神殿に参拝したが何も答えは得られず、だが、彼女の織物にはいつしか魔力が宿るようになっていた。
 黒髪のマレイナは元女剣闘士、皇帝の突然の女剣闘士廃止令により失業した所を、ユーディットにスカウトされた。以来、糸の切り手としてエディナの魔力を強化している。
 エディナの織った布は未来を映し出す。自分たちが逃走を手助けした奴隷剣闘士たちが窮地に陥ると知って、彼女たちは改めて布を織る。それには目くらましの魔法が織り込められていた。 

 ジャッカル
 コンスル帝国歴 1351年、首都にて。
 本(ギデスディン)の魔道師ケルシュが町で拾った少年ミルディウスは、ジャッカルを連れていた。いつのまにやらついて来ていたらしい。ミルディウスの家はスタラ教の奴隷に襲われ潰されたとの噂、だがミルディウスはそれを否定する。彼の話を聞いたケルシュは裏で事態を画策していた人物を特定、復讐を計画する。ミルディウスに代わって憎悪を背負って生まれてきたジャッカルと共に。 

 ただ一滴の鮮緑
 コンスル帝国歴 880年 ノーユの町にて
 チャファは生命の魔道師。宮廷魔道師のレイサンダーと反響しあって魔力を引き出されて以来、瀕死の生命を助けてきた。その都度 彼女の生命力は削られて行くが、助けたいという衝動には勝てない。
 齢30過ぎでよぼよぼの老婆の姿になった彼女の元に、昔馴染みで州副長官のキオスから連絡が入る。半ば引きずられるように連れて行かれた家に横たわっていたのは、彼女の母親。その吝嗇で実の息子の薬代をケチって死に追いやり、耐えかねたチャファが逃げ出した相手。
 それでも救うのか、自分の生命を注ぎ込むのか。チャファは自らの闇に対峙することになる。

 神々の宴
 ヴィテス王国歴 213年(コンスル帝国歴 485年)
 三方を峻厳な山々に守られたヴィテス王国に、今コンスル帝国の第四皇子テリオスは攻め入ろうとしていた。元々温和な性格のテリオスは、相手からの話し合いの申し入れに応じたいが、初手からテリオスをお飾りと見ている軍団澄メビサヌスは、それに洟もひっかけず、隘路を突き進む。徐々に数を減らして行きながらの進軍の最中、テリオスは奇妙な三人組の宴会に出くわす。彼らは神を名乗り、春先の風雹を予言する。…

 お久しぶり、のオーリエラントのシリーズ。
 元々古代ローマ風の設定だな、とは思っていたのですが、ここまでローマ色が強かったっけ?というのが第一印象。食べ物の描写も もっと異世界感が強かった気がするし、奴隷剣闘士の反乱、となるとモデルとなった歴史上の出来事が思い当たるような。
 懐かしい名前も出て来ましたね、とか言いながら「『ギデスディンの魔道師』、知ってる筈だぞ」「レイサンダー、覚えがあるなぁ」くらいの感じで、ちょっと確認し直しました。…自分の記憶力の低下が憎い…;;
 魔力を自分の底から引き出す描写は独特ですね、色彩に溢れて相変わらずの安定感。基本的にはハッピーエンド、読後感良く安心して読めました。作者があとがきで触れていたギリシャ神話ですが、各地の有力者が「自分は神々の子孫である」と言いたくて色々やらかす神に仕立てた一面もあるとか聞いたことがあるので、世俗的なのもむべなるかな。トールキンの世界に宗教を感じない、というのはそういえばそうか…!と目からウロコでした。そういう点でもナルニア国と対比的なんだな。