読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

沈黙の書 The Son of Winds 乾石智子著 東京創元社 2014年

 『オーリエラント』シリーズ5冊目。 
 ネタばれというか、粗筋書いてます、すみません;

 コンスル帝国建国 627年前。
 火の時代、絶望の時代が近づいている。戦がはじまる。穏やかな日々は吹き払われる。人々は踏み潰され、善きものは物陰に縮こまる。神々は穢され、理は顧みられることもない。
 予言者ステファヌスは、絶望の時代の後の人の心の芽吹きを助けるため、オルリアエント中を旅することを決意する。
 帝国建国前 583年。
 ステファヌスが火の時代と呼んだその最中、<風森村>に一人の男の子が生まれた。風の祝福を受けたその子は<風の息子>と名付けられ、やはり雨の恵みを受けた少女<雨の娘>や癒しの月光の力を授かった<三日月の望み>と共に、13歳まですくすくと育つ。村の長老の昔話や知恵者の教訓を炉端で聞く穏やかな暮らしは、ケスルからの騎兵によって踏みにじられた。
 子供たちばかり集められた行く先で、<風森村>の子供たちは自分の魔法の力を、戦に使うように訓練を受ける。伸びていく力に有頂天になる子供たち。だが、<風の息子>ことヴェリルが18歳になる年、ヴェリルは初めて人を殺し、また仲間の死を目にする。勝利の宴が繰り広げられる中、一人立ち去るヴェリル。彼は<風森村>に帰るつもりだった。
 だが、故郷は荒れ果て、森に呑み込まれていた。呆然と立ち尽くすヴェリルに、一人の男が近づいてくる。長い影を纏わりつかせたその男は、ヴェリルが持つ『沈黙の書』を寄こせ、と言う。村に伝わる伝説、村人たちに不思議な力を与えた白狐が、幼いヴェリルに選ばせ与えた『沈黙の書』。時に現れ、未来を予言する不思議な巻物。ヴェリルが拒絶すると、<長い影の男>は自分の過去の断片を見せながら去って行く。
 別の地で、魔道師としてやはりヴェリルは戦に駆り出される。その地の女領主に支配され力尽き、敵方の女領主の捕虜になる、さらに逃げ出した先で<星を支える竜>に会い、『平和』を望むための星の欠片の力を手に入れる、色の魔道師によって与えられたカリスマ性を持つ王に仕える兵士の中に、行き別れた弟<山をまたぐウサギ>ことドゥーラと再会する。二人で逃げ出した先で、族長たちが話し合いで物事を決める国アルデイラの話を聞く。節目節目に<影の長い男>は現れ、『沈黙の書』を欲する。『沈黙の書』とそれの材料を集めたステファヌス、言葉に起こした伝説の海賊王デランダールと<長い影の男>との因縁が語られ、予言書は全能ではなく、ヴェリルの行動によって内容が回避されることが分かる。
 <雨の娘>ムベルとの再会、彼女から知らされる北の蛮族の脅威。言葉も通じず、ただ攻撃的で、同族すら食糧としてしまう行動には闘うしかない。
 圧倒的な数の差にヴェリルたちは打ちのめされる。すかさず忍びよる<長い影の男>、ヴェリルは『沈黙の書』を取り出す。…


 装丁が良い。このシリーズの表紙画は通じて羽住都さんなんですが、とにかく愛情を持って描いてらっしゃるんだな、ってことが伝わって来る。上を向いたドラゴンが一体どういう意味を持つのか、読み進んでわかった時にはもう感動、ですよ。水彩画ってのもいいよなぁ。一発描きでこれは凄いよ。
 過去を追体験しながら現在とを行き来する内容は相変わらず、<長い影の男>ヒアルシュとの決着は、でも途中でちょっとブレたような気がしないでもない;; 北の蛮族への対策も込めて、「言葉の力」を信じる結末と二つながらになったような。一気に情景が飛び浮かび上がる描写は変わらず凄かったです。
 北の蛮族については、映画『ワールド ウォー Z』のゾンビを思い出しましたよ。農耕も家畜の知識もないのにどうやってあんなに増えたんだよ、という疑問は残りつつ; 作風としてはやっぱりアーシュラ・K・ル・グィンを連想するなぁ。
 もう角川からの新刊も出るようで、あんまり書がなくてもいいんだけどな; じっくり、ゆっくり面白い作品を書いて行って貰えれば。