読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

香君 下 遥かな道 上橋菜穂子著 文藝春秋 2022年

 ネタばれあります、すみません;

 海辺では育たない筈のオアレ稲。だが、オゴダ藩は独自に研究を重ね、帝国から規定された肥料の量を減らすことで、より強い稲を育て上げていた。しかもこの稲は、オオマヨにたかられても平気なほど太く丈夫だった。
 オアレ稲の毒性を弱めるために与えると信じられていた肥料が、実は稲自体も弱めていた。アイシャには、その栽培方法には初代香君の思慮遠望があったに違いないとの直観があったが、実際にオオマヨの虫害にあっている民や、対処法を考えあぐねていた帝国にはそれは通じない。〈救いの稲〉と名付けられ、瞬く間に領土内に広がって行く。オオマヨに喰われながらも育つ〈救いの稲〉は何ものかを呼ぶ香りを上げ続け、アイシャの不安を煽った。
 やがてその香りの声は、異郷の地からバッタに似た昆虫ヒシャの群れを呼び寄せた。初めはオオマヨを喰う益虫と思われていたのに、ヒシャは産卵し、その子はオアレ稲をはじめ、周囲の山野まで喰い尽くした。あまりの繁殖力に、アイシャたちは帝国内のオアレ稲の全焼却を提言するが、なかなか賛同は得られない。見通しを甘く見積もりたい各藩王に対し、オリエは香君の権威でもって焼却命令を発布しようとするが、反対派から毒を盛られ、ろくに動けない状況に陥る。
 アイシャはオリエを支え、共に露台に立つ。藩王たちを説得するために、自らもう一人の香君だと名乗る。…

 もうちょっと時間がかかるだろうと思ってたら、一気に読めました(笑)。
 何とかことを穏便に済ませたい為政者者側と危機感を抱く学者側、この辺りのズレは現実世界でもよく見たような。災厄を防いだらそれが何よりなんだけど、防げてしまったらその分の評価はされない。オアレ稲が放つ香りが、ヒシャを呼ぶものではなく実は…という二転三転する展開は圧巻でした。でも欲を言うなら、異郷の地から戻って来たマシュウの父親が…ってくだりは、何だかラクをされたような気がしないでもない。いや、一応伏線は張ってあったんですが。
 考えることを止めてしまってはいけない、というのは上野さんの作品で一貫して言われている気がします。伝奇伝承の類でも、無条件に信じても頭から否定してもいけない、どうしてそうなったのかの検証の重要さ。学者さんなんだよなぁ。
 希望のある終わり方は、やはり読後感がいい。スピンオフ作品も書かれそう、作者の中でキャラクターまだ動いてるんじゃないかしら。