読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語  中村弦著  新潮社  2008年

 第20回ファンタジーノベル大賞大賞受賞作品。
 明治から大正にかけての、ある建築家の物語。
 ネタばれになってると思います、出たばかりの本で本当、すみません;

 明治14年、銀座煉瓦街の裏通りの洗濯屋の次男坊として、笠井泉二は生まれた。幼いころから頭脳明晰、絵も飛び抜けて上手かった泉二は、長じて造家師――建築家となる。彼の造る建物は住む人の心を捕え、狂わせるとの噂がたつ。
 小藩明主として激動の明治維新をくぐり抜けて来た老子爵夫人には、美術や工芸品をこよなく愛した亡き夫と過ごせる部屋――生きている人間と死んだ人間とが、いっしょに暮らすための家を。
 風変りな探偵小説家には、永久に住めるような建物・迷宮閣を。
 幼馴染の少女、家の商売が傾いて結局春を売るまで身を落とし、そこで新進の青年実業家・敷丸隆介に見染められて妻になった輝子には、幼い頃の約束の通り、川の上に橋のように建つ、過去に苦痛を持たない家を。
 合間合間に泉二自身の生い立ちも語られる。
 7歳の時、鹿鳴館の上に舞う天使の夢を見て、関係者以外は知らない筈の地下通路の存在を知ったこと。
 東京帝国大学工科大学三年生の時、父親の期待に応えられず自殺した友人のために彼のための図面を引いたこと。
 建設会社に就職した泉二が、先輩の妹・黎子と言う伴侶を得て幸せに暮らしていたのに、海外建築の視察中に天命を得て、代わりに妻とそのお腹の子供を喪ってしまったこと。二人のために墓を設計したこと。
 中学校三年生から泉二と知り合い、その建築に惹かれ続ける友人・矢向丈明の眼を通じて語られる。…

 手にとって、おお、本当のハードカバーだ、とちょっと驚きました。ここ数年、大賞受賞作でもソフトカバー(と言っていいのかな?)でしか刊行されてなかったのに。
 で、読み始めていきなり惹かれました。
 ああ、好みだ。とても好き。
 元々建築物とか設計図とか、からくりとかオルゴールとか好きです。小学校の理科「てこと滑車」で物理に挫折した私には、こういう手の込んだものを考えられる人、作れる人が羨ましくて仕方がない。木組みだとか歯車のかみ合わせとか、どう考えたら全体像が見えるのやら。
 今回出てくる笠井泉二が設計した建物も、実際見てみたくて仕方がありませんでした。この時代ならでは、贅と粋をこらしたモニュメントたち。綾辻さんの『館』シリーズのゲームが出たみたいに、この作品に出てくる建物もCGとかで誰か作ってくれないかなぁ。ゲーム画面でいいから探索したい。…でも実際出たら、「想像してたのとは違う」って思うんでしょうけど(苦笑;)。
 ラストが近付くにつれ、実は私は主人公の死を望んでいました。この一冊で完結してほしい。完全燃焼して欲しい。このままでは下手すると続編が出てしまう。この一冊に、作者が全てを注ぎ込んだ作ならいいのに。
 今でもこの思いは、実は変わっていません。続けようと思ったらいくらでも続けられるかもしれない。でも、続編が出ませんように。…出そうな気はするんですけどね(ふぅ;)。