読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦著 角川書店 2010年

 小学四年生の「ぼく」アオヤマ君の経験した一夏、大人になるまで三千八百八十八日から三千七百四十八日までの間に起きた出来事。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 「ぼく」は新興住宅街の一画に、両親と妹と四人で住んでいる。ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強する。毎日きちんとノートを取り、たくさん本を読む。
 ある日、ぼくの街にペンギンの大群が現れた。どこから来たのかまるで分からない。業者のトラックに乗せられて街を出たものの、いざ目的地に着くと荷台から消えてしまっていたのだとか。
 ぼくはこの不思議なペンギンを研究する。同時に、街の探検も、同級生のウチダ君と一緒に進めている。クラスメイトのスズキ君はぼくやウチダ君が気にいらないらしい。スズキ君帝国の配下二人、コバヤシ君とナガサキ君と共によくいやがらせをしてくる。自動販売機に縛り付けられたぼくを助けてくれたのは、歯科医院に勤めるお姉さんだった。そしてお姉さんは、コーラの缶をペンギンに変えてみせた。
 ぼくはペンギンとお姉さんについて研究する。お姉さんに協力して貰って、実験を繰り返す。お姉さんはペンギンを出すと体調が悪くなる。それ以外のものを出すと、元気になる。
 そのうち、クラスメイトのハマモトさんが近付いてきた。彼女は彼女で、研究しているものがあるらしい。ぼくとウチダ君を連れて行ってくれたのは郊外の森の奥。広々とした草原に浮いている、透明な球体がそこにあった。
 <海>と名付けられたそれは日ごと拡大し、また縮小する。<海>についても研究を進めるうち、その拡大縮小が、お姉さんの体調と関係あることが分かってくる。
 やがて<海>の存在は、ぼくらをこっそりつけて来たスズキ君に見つかり、大人にも知られてしまう。調査隊が組織され、ぼくらはその場を追い出される。
 どんどん拡張する<海>、それこそ街を呑み込むほどに。それにつれて元気になるお姉さん、ペンギンと、ペンギンを食べる異形のもの。やがてその繋がりにぼくが気付いた時、お姉さんとの別れが待っていた。…

 いいなぁ、この話。すごく好き。
 泣きそうでした。クライマックスを会社の昼休みに読んじゃったんだよなぁ、家で読んでたら本当に泣いてたなぁ。
 男の子がお姉さんに恋をする、ってどうしてこんなに甘酸っぱくも切ないんだろう。小さい女の子がお兄さんに、ってのとはどうもニュアンス違うんだよね。
 またこの主人公がこまっしゃくれてて生意気で口ばっかり達者で、こんなに小さくてもおっぱい星人(苦笑;)。なのにそれが可愛らしい。ハマモトさんも惹かれる筈だわ(笑)。と言うか、登場人物みんな魅力的なんですよね。息子に真面目に相対するお父さんも、絶食実験を見守るお母さんも、あからさまにハマモトさんが好きなスズキ君も、子供の喧嘩と承知しながら参加するお姉さんも。
 現実とファンタジーの交ざり具合が初めちょっと掴めなくて戸惑いましたが、お姉さんがペンギン作ったくらいで私の中で安定しました。それからはすいすい読めましたね~。ちょっとまとまりないかな、と思った所もあったけれど、それは連載の名残りかな。
 この子は、お姉さんを待つつもりなんだね。ちょっと『時をかける少女』を思い出したり。あれも、未来に向かって走って行く、「未来で待ってる」ラストでしたよね。
 この装丁もいい。男の子はちょっと四年生より大きそうだし、癖っ毛でもないけれど、お姉さんもショートヘアではないけれど、でも凄くいい。
 森見さんは新潮社のファンタジーノベル対象出身ですが、この話で応募していても、きっといい所まで行っただろうな、と思いました。世に出る人はちゃんと出るんだね。
 アオヤマ君、いつかもう一度、お姉さんに会えるといいね。