読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

香君 上 西から来た少女 上橋菜穂子著 文藝春秋 2022年

 ネタばれあります、すみません;

 西カンタル藩の元王の血筋として、現王のヂュークチに掴まり、殺されそうになった少女アイシャ。だが、彼女の類稀な嗅覚の良さに気付いた藩王国視察官のマシュウは、アイシャを秘密裏に救い出し、〈リアの菜園〉に送り出す。様々な植物の生育について調べる〈リアの菜園〉では、相性の悪い植物同士を近くに植える実験もされていた。植物が上げる悲鳴にも似た香りに耐えかねてアイシャは夜中こっそり菜園へと忍び込み、その様子を香君オリエに気付かれた。
 香君――かつて異郷の地から来訪し、驚異の植物オアレ稲をもたらした伝説の少女の尊称。オアレ稲の栽培方法を事細かに導き、香りで万象を知ったと言う。現在の香君は、初代香君の生まれ変わりの女性が国中から探し出され、活神として崇められている。だが実際はそんな選定は形ばかり、権力闘争に差しさわりのない見目好い少女が選ばれ、生涯を捧げるよう強いられた存在だった。
 ウマール帝国はオアレ稲とその育成方法を各藩に分け与えることで、地方を支配下に置いていた。気候変動にも害虫にも強く、二期作、三期作もできてしかも美味いオアレ稲。一旦この稲を育てたら他の穀物は育てる気が起きないし、また、オアレ稲を植えた土地は土壌が変質し、他の植物が育たなくなってしまう。種籾は帝国が独占し、肥料も下賜される。量や与え方は香君が授けた通り厳密に守らねばならない。だが、あまりに広がり過ぎた領土内で、管理はゆるくなって行った。結果 害虫オオマヨが発生した上、その際の規定は守られず被害は広がり、その地域 オゴダ藩のオアレ稲をオオマヨごと焼き払うことになる。オゴダでは餓死者まで出る沙汰となった。
 一種の穀物に頼る危険性を鑑み、アイシャはオリエやマシュウの意を受けて、こっそり肥料の開発や他の穀物の栽培の研究に勤しんで、成果を上げ始めていた。飢餓の村を回り、秘密裏に隠し畑に麦や蕎麦を育てるよう指導して回るアイシャ。だが、隠し畑の存在を同僚のオラムに知られ、そのオラムと共に何者かに攫われてしまう。
 連れ込まれたのはオゴダ藩王の母、ミリアの館。陸地から離れたギラム島で、アイシャは海辺では育たない筈のオアレ稲が、一面に実をつけている風景を見る。…

 マシュウと聞くと「そうさのう…」が思い起こされる今日この頃。…いや、そんな話ではなく。
 ソメイヨシノってクローンなんでしたよねぇ。バナナが一種しかないとかいうことは、米澤穂信さんもこのテーマで短篇書いてられましたっけ。虫に食われている植物が、天敵となる昆虫を呼ぶホルモンを出しているとかいう話も、この間TV番組で見たような…。上橋さんの手にかかると、こういうお話になるんだなぁ。
 どうやら神郷オアレマヅラから来たらしいアイシャとマシュウの母親、国の成り立ちに勢力分布図、それぞれの立場。上巻はまだ設定の説明の段階ですが、ぐんぐん読ませます。不穏な空気が底に低く流れている感じ、多様性の大切さ、外来種を安易に受け入れることの怖さ。さて、物語はどう発展していくのか。
 下巻に続きます。