連作短編集、になるのかな。
ネタばれあります、すみません;
第一話 独楽の国
記憶のないまま、少年はそこにいた。覚えているのは「おふう」という名のみ、切り立った崖に挟まれた小道で、そこにいる男から何度も何度も握り飯を引ったくり続けている。何十回目か、少年は生首が転がっているのに気づく。生首は生きて喋った。やはり記憶がなく、少年をトサ、自らをオビトと名付けて、握り飯の男に話を訊こうとする。この回る独楽のような輪廻の世界から抜け出すには、その男が肝になっているに違いない。その予測を聞いて、トサは躊躇いなく男を殺そうとする。
第二話 波鳥の国
男を生まれ故郷に送って、トサとオビトは旅の法師に出会った。「御首さま」という信仰を聞いた二人は、御首さまが使うという『波賀理』を見極めに、その大元の地 那良へ向かうことにする。
途中、海辺へ出た二人は、漁師の若夫婦にもてなされた。その夜、津波が小屋を襲い、トサはオビトと若夫婦の赤ん坊を抱いて、高台へと走る。
第三話 碧青の国
トサとオビトは碧青(あお)の国に迷い込んだ。少女おくうによると、ここは碧青と呼ばれる宝玉の原石採掘を生業にしているのだとか。この国の民は国を出ることが許されず、何故か四十歳を迎えられず死んでいくという。おくうが人柱に選ばれたのをきっかけに、トサとオビトは彼女を連れて国外へ逃げ出す。見たことのない景色に喜ぶおくう、だが三日と保たずに彼女の具合が悪くなった。
第四話 雪意の国
大吹雪の雪原で船に出会ったトサとオビト。乗せて貰って束の間、血吹雪に出くわした。正気を失わせ、亡くした人の幻を見せて命を奪うという血吹雪。トサはそこで虚空におふうを見つけたらしい。
第五話 消去の国
於保津にて、オビトは盗賊団の少年 日達丸に攫われそうになった。貧しい人々が集まった盗賊団は今では壊滅状態で、特に頭の瑞奇丸は妹を惨殺されて抜け殻同然、辛い過去を喰う鬼のいる「消去(きえさり)の国」に行きたいと呪いを続けている。日達丸は、消去の国の鬼と話せるのは御首さまだけと宣託されて、鬼が瑞奇丸を連れて行かないよう説得して欲しいとオビトを探していた。果たしてその日現れた鬼は、オビトの過去も喰らったことがあると言う。
第六話 和茅国
那良の地に着いた二人。だが『波賀理』の手掛かりは得られない。諦めて新たな旅に出ようとしたとき、トサは「おふう」を見かける。おふうとは、トサが生まれ故郷で口減らしに殺されそうになった後に拾った鷹の雛で、幼馴染みの生まれ変わりとして大切に育てていた鷹だった。だがその鷹は殺され、鷹羽がオビトの主君である領主の長子に献上された。トサは長子を射殺し、オビトはトサを罪人として捕まえる。
第七話 波賀理の国
二人の過去の因縁が明らかになり、『波賀理』が目の前に現れた。御首でできた巨大な天秤はそれぞれの皿に二人を乗せ、「義」を量ろうとする。どちらの行動に義があったのか、オビトは二人が助かる唯一道、秤が釣り合う方法を探る。…
戦国時代っぽい舞台背景で描かれたファンタジー。旅を続けていくうちに自らの出自やその罪咎を思い出し、昇華する。
首だけの喋るおっさん、って設定をよく思い付いたなぁ。かなり荒んだ風だったトサが、徐々に人の情を取り戻していく過程は納得いきました。それだけにまた元に戻るのが切ない。
最終的にオビトとトサが釣り合う、って描写がしっかりとはなくてですね、あれ、助かったのか、と少々戸惑いました。方法もちょっと曖昧というか、はっきりした解があるようなないような、でも確かに心持の問題でもあるからなぁ。
挿画がいい。本当に水彩なのか水彩風なのか分かりませんが、登場人物が可愛らしくも特徴的に描かれてて凄く好みでした。