読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

おもろい以外いらんねん 大前粟生著 河出書房新社 2021年

 お笑いコンビ Aマッソの加納さんが『アメトーーク!』で紹介されていた一冊。
 ネタばれになってるかも、すみません;

幼馴染の咲太と滝場、高校で転校してきたユウキの仲良し三人組。滝場とユウキはお笑いコンビ<馬場リッチバルコニー>を組み、27歳の今も活動中だが――。優しさの革命を起こす大躍進作。  (出版社紹介文より)

 これはお笑いコンビ<馬場リッチバルコニー>が解散するまでの話。
 咲太は滝場と幼馴染み。滝場が梅雨時すっかりダメになってしまう分、咲太がフォローに回るほどの仲。高校の文化祭で漫才やろうと誘われて満更でもない感じ、だが滝場はミクシィで知り合ったユウキともコンビを組んで、それぞれ漫才をすると言う。
 咲太との漫才は滝場がネタを書き、ユウキとの漫才はユウキが書いたネタをする。咲太との漫才は日常からの延長を描いたもの、だがユウキのネタは不条理に話が飛んでいくシュールなWボケ漫才。どちらもを掛け持ちして練習するうち不安定になる滝場を見て、咲太は解散を持ち掛ける。一度も人前で漫才しなかったけれど。
 そして27歳。咲太はホテルに就職、滝場とユウキは<馬場リッチバルコニー>と言うコンビ名で芸人をしていた。コロナ禍でホテルは経営難、咲太は<馬場リッチバルコニー>らお笑い芸人の、無人の劇場からの配信を見る毎日。やがて滝場のギャグフレーズが受けて、滝場だけが爆発的に売れ始める。ご時勢だのコンプラだのごたごたする中、ユウキの感情がぎくしゃくし始めた。
 アクリル板越しの漫才中、とうとう滝場を殴ってしまったユウキ。もやもやを抱えたユウキが訪れたのは高校の時よく通った公園で、そこにはホテルをクビになった咲太の姿があった。咲太に滝場への思いを吐露するユウキ。そこへ何故か滝場まで現れる。…

 文章によってはなかなかに状況が掴みにくい部分があって、ちょっと戸惑いました。会話で進む部分は誰が喋ってるのか分からなかったり、ピン芸人<つぐみぼんぼんぴょん丸>が女性だと気づくのにも遅れたし。…文章表現にもジェンダー問題が絡むのかもしれないけど、これはちゃんと最初に書いとかなきゃ駄目だろう。
 悩み等々が結構当事者のもので、なるほど、漫才師の人には心に刺さるエピソードが多いかも。ネタ中は半分ウソを纏ってるという台詞は、漫才コントとかではなく、漫才師さん自身がやりとりしているようなネタをしている人には絶対心当たりがある筈。それで壊れかけていた滝場の心持も。身を引く咲太、でも彼らのその後が気にならない筈がなく。
 笑いの基準、環境も変わっていく。「女性に女性をディスらせてよろこんでる」ってのは、男性がやったら絶対アウトだし、女性がやっても今の風潮では笑いより不快感が占める。それを黙って諦めて我慢してたせいで、社会倫理が遅れた過去があるから、それでいいと私は思う。見た目いじりも含めて、順応していかないといけない。窮屈さより、私はそちらが勝つんだよなあ。滝場には、奥歯が砕けるほど歯を食いしばることかもしれないけど。
 「ユウキがどんだけおもろいネタ書いてきても一部の人にしか理解されない」って、それを通訳するのが相方の作業でもあるやろ、とちょっと思いつつ。それを咲太に託すということか。
 咲太は滝場たちとトリオになるのかな。27歳から、って大変だと思うけど、親も泣くんじゃないか、といらぬ心配をしてしまいました。